2010年07月14日更新
マンションの価格相場に新たな視点
マンションの価格相場は、取引事例の蓄積から形成されます。路線価や公示地価などを指標のひとつにする土地とは、そこが大きく異なる点ではないでしょうか。したがって、マンションの価格相場を把握するためには、事例同士の比較の仕方を知らなければなりません。マンション選びをするうえでも、この物件比べはとても重要になります。
もっとも参考になるのは、同じ建物のなかでの成約事例です。残念ながら売買実績が1件しかなければ、そのときの売主の事情が、相場形成に多大な影響を及ぼす恐れがあるわけですが、半年なら半年、1年なら1年以内に数件の取引があったのであれば、それをもとに、条件の優劣を勘案して相場のラインがおのずと浮かび上がってくるはずです。
新築分譲ならば、同じ棟の過去の取引が当然ながらありません。まさにその売れ行きそのものを参考にしつつ、過去に売り出された新規プロジェクトの比較を目安にするしかありません。
次に、実際に価格比較をして相場をはじき出すときの注意点ですが、部屋ごとで比べる場合には、なるたけ条件の違いを明確にしておくことです。「眺望」、「向き」、「階数」、「部屋の大きさ(異なる場合は単価で割り出す)」など基礎的な項目に加え、「角住戸」や「ルーフバルコニー付き」、「最上階(や専用庭付きの1階)」など特殊な条件があれば、割り戻して考慮する必要があります。さらに、「間口の差」、「天井の高さ」も対象にすべきですし、階段や自動ドア、エレベーターやゴミ置き場など「部屋の近くにある影響を受けそうな要素」も勘案します。比較する物件がまったく同じになることはまず考えられないでしょうから、それぞれのプラスとマイナスを並べながら、想定の相場レンジ(幅)を固めていくわけです。
離れた場所のマンション同士を比べるときは、住戸で見る前に、立地条件で善し悪しを見極める必要があります。「交通利便性」、「駅からの距離」、「駅から現地までのアプローチの雰囲気」、「周囲環境」、「生活利便施設の有無」、「隣接地の建築(あるいは建て替え)計画の有無」、「将来性」など様々な視点で比較します。また、都市計画のなかの用途地域も確認し、街並みにおける地域の位置づけも抑えておきましょう。不動産は立地次第、といわれますが、それは今も昔も変わりはないのです。
最後に、マンション相場を計る上で今後ますます切り離して考えられないのが「建物の質」。たったいま、立地が大事といったばかりですが、これは、立地の重要性はそのままに、さらに加えて建物の質を見極めねばならない、という意味です。つまり、不動産の価値を決定付ける項目がそれだけ複雑化されてきており、見極める側もこれまで以上に細分化して判断せざるを得ないのだ、と捉えていただきたいと思います。
「建物の質」には2つの側面が挙げられます。ひとつは、年代によって法令に伴った性能の違いを知ることです。代表的なところでは、新耐震基準(1981年、建築基準法改正)、住宅性能表示制度(2000年、住宅の品質確保の促進等による法律)などが区切りになる施策です。とはいえ、耐震基準であれば、法規制より前の建築物はすべて基準を満たしていないわけではありません。要するに、施行の前と後の差を知っておけば、意識してチェックでき、築年数で比較するときの時代背景を把握することにつながります。
もう一つは「耐久性」と「省エネ」です。持ち家を推進する税制優遇策は、これまでも狭い面積の物件などはその対象から外れていましたが、一昨年の長期優良住宅法制定を境に、住宅ローン控除の限度額上乗せやフラット35Sの利下げ幅拡大などで、「耐久性」や「省エネ」などの項目で一定の条件を満たした建物はその優遇をさらに手厚くする、という施策が相次ぎました。つまり、これまでは一定の広さ以上かどうかや一律築年数の線引きしかなかった条件が、これからは国が明示した「良質な基準」を満たしているかどうかで、その恩恵の受ける度合いが大きく異なるようになったのです。このお得感が需要を呼び、個別の価格に影響を与えるなら、国が推奨する基準を理解しておく必要があります。
マンション選びに「価格」は最も重要な条件です。納得して買うためにも、立地の違いと住戸条件の違い、さらにそれに加え、建物の質を見極めることができなければ、妥当な相場価格をはじき出すことのできない市場環境になってきたと認識しなければなりません。
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)
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