2010年08月25日更新
「家賃の値下げ」がマンション市場に与える影響
財団法人 日本賃貸住宅管理協会が発表した、平成21年度下期 賃貸住宅景況感調査「日管協短観」調査結果報告によれば、入居条件「礼金なし物件」「敷金なし物件」が増加したと答えた賃貸住宅管理会社はそれぞれ60.7%、50.0%にも上ります。減少と答えた会社はわずか8.2%、7.0%ですから、現状いかに賃貸住宅が借り手市場であるか、この数字一つとってみても十分おわかりいただけるのではないかと思います。
また、2年以上ものあいだ上昇し続け、今年の6月ついに9%の大台を突破したオフィスビルの空室率(三鬼商事調べ)も、今後賃貸住宅市場にどう波及するのか大変気になるところです。ちなみに、最近大手賃貸会社で聞いた話では、これからビルを建てる計画のあるオーナーには、住宅用途への変更を提案しているということでした。不動産ファンドの乱立などで過剰気味の賃貸マンションはまだまだ沈静化しそうな気配がないといえそうです。
とはいえ、都心で新築(あるいは築年数の浅い)賃貸マンションなどは根強い人気があり、空室率も低く維持できている物件が少なくありません。ところが、このように一見好調に見える物件であっても、実際の賃料は当初想定していたレベルもしくは前入居者の月額賃料よりも下回って契約を結んでいるケースが珍しくないとのこと。つまり、市場の実態としては、個別に表面化せずとも、じりじりと家賃相場が下降線をたどっていっているようなのです。
弱含みの賃料に、供給調整もなされないようであれば、賃貸市場の長期的なデフレ構造はそう簡単には立ち直りそうにありません。オーナーからすれば、空室で一切家賃が入らないことを考えると、多少の値下げはやむを得ないと判断するのが妥当でしょう。家賃の値崩れは、立地や物件にもよるでしょうが、ますます拍車がかかりそうな予感がします。
さて、それではこの家賃の値下がり傾向は、今後マンションの売買市場にどのような影響をもたらすのでしょうか?
90年代後半以降、首都圏の新築分譲マンションは年間8万戸という空前の供給ラッシュを10年以上も続けてきたわけですが、どこにそれだけの需要があったかというと、答えは簡単。「低金利で返済額が抑えられたから」の一言に尽きるでしょう。十分な頭金がなくても、「家賃並みの金額で、近くて広い新しい家に住み替えることができた」からなのです。
実際に新築マンションを買った理由として「今の住宅費が高くてもったいないから」と答えた人は33.3%にものぼります(2010年首都圏新築マンション契約者動向調査 リクルート社調べ)。この回答は8割以上の人が一次取得者ですから、購入者の4人に1人以上の割合で、家賃と返済額の比較が購入の動機になっているということがわかります。したがって、もしこのまま家賃が下がり続けると、これまで引き金になっていた「家賃と同じ返済額で、条件の良い新築マンションに住める」という方程式が成立しなくなる恐れがあるのです。家賃の値下げが与える影響は決して小さくはないといえそうです。
それともうひとつ。資産価値を重視するマンション購入者に対しては、よく「貸せる物件をねらえ」というアドバイスが送られます。これに関しても今後は注意が必要です。出し値ではなく、家賃相場の実勢調査をしっかり行ったうえで判断する必要があるからです。賃貸市場の大きなうねりは、様々なかたちで売買市場に影響を及ぼすものと考えられています。
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)
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