2010年12月01日更新
新発想の”次世代マンション”が誕生
”建築家と建てる家”が脚光を浴び、10年近くに経ちました。画一的な住まいに物足りなさを感じた団塊ジュニアが火付け役だったと記憶していますが、相次いで創刊した専門誌やインターネットの普及も手伝い、この流行は市場に定着したようです。他でもない、当サイトの「建築家の自邸」も購読率が高く、人気コンテンツのひとつになっています。
しかしながら、普及という点では、まだまだ歴史が浅い分野でもあります。ある建築家は、その一端をこう表現しました。「膨大な資料(たいていは雑誌)を抱え、ああしたい、こうしたい、とやりたい事が山積み。”もっと良い方法があるのに”と思っていも、途中で口をはさむ余地すら与えてもらえない」。イメージが膨らみすぎていて、閉口してしまう場面が多いというのです。ところが、100%思った通りの家で良いというのでもない。「すべて言う通りに聞いても逆に満足しない。1割から2割程度は、プロから叱ってもらうことをどこかで待っている」のだそう。「専門性が高い分野であることも理解しているのでしょう」。
自分のイメージをほぼ形にできたという点では満足出来るのかもしれません。しかし、本当に建築のプロに頼む意味があったのか、その力を発揮してもらったとは言い難いのではないか、と、この話を聞いていて思ってしまいました。
ひるがえって、分譲マンションに目を向けてみると、建てられる工程そのものは建築家のそれとは、まったく逆になります。住み手が見えない中でデベロッパーは設計をし、工事をはじめなければならないからです。もちろん、立地の特徴を踏まえたうえで購入者をイメージするのですが、在庫を避けようとするがために、どうしても多くの人に受け入れてもらえるような建物、つまり”無難なプラン”になってしまいがちです。この辺りが、マンションは無個性だと思われる要因のひとつではないかと思われます。
供給側であるデベロッパーは、本来こうあるべきだとわかっていても、トレンドや見た目でやむなく選択せざるを得ない場面も少なくありません。例えば、外壁の仕上げなどがそうです。「外壁はタイル貼り」これが定石になっています。しかし、躯体の構造工法によっては、タイル貼りが決して最良な選択でないケースが存在します。
プロが最適であるとするアイデアを、目に見えない買い手の意向が邪魔をしてしまっているとしたら、こんなもったいないことはありません。大多数の思い込みを振り払い、”無難”を選ばず、豊富な知識と経験をフルに発揮し、先進の技術をあますことなく登用したマンションができたとしたら。
そんな視点で、今年登場した分譲マンションのなかから、最も印象に残った個性的な物件をふたつ挙げてみました。既存の枠におさまらない住空間を瞬時に理解するのは、ひょっとしたら困難かもしれません。住宅建築の分野で、長年培った実績から導き出された「プロの回答」は、一般の人がすぐにわかるほど単純なものではないからです。しかし、説明を受ければ、住宅は見えないところこそ重要だという意味が本質的に理解できると思います。マンション選びに必要な知識を増やすことにもなるはずです。
ひとつは、景観法にかかる桜並木沿いに立つ壁式免震構造の「桜プレイス」(豊島区高田:鹿島建設)。敷地条件に応じてオーダーメイドに似た構造手法を取る鹿島建設の強みが、構造だけでなく外観デザインや居住性すべてに一貫して活かされています。ここは私が「マンション選び」講座(NHKカルチャー)の題材として採用した現場でもあります。
そしてもうひとつは、床下チャンバー式空調システムを開発した外断熱工法の「パークハウス吉祥寺オイコス」(武蔵野市中町:三菱地所)。根本的な環境性能を高めつつ、上質でスタイリッシュな空間を用意しながらも、内装の自由度は残すという住み手の力量が問われるハイレベルな住宅です。
分譲マンション半世紀の歴史の集大成といえば大げさですが、少なくとも10年前には普及していなかった工法や設備を見ることができます。進化した建築技術の今を知るには最適な2棟といえるでしょう。
「パークハウス吉祥寺オイコス」のモデルルーム。外断熱工法に木製断熱サッシュ「スマートエコウィンドウ」を採用。内装はコンクリート打つ放しに、フローリングは無垢材を。省エネ性能の高い躯体で、インテリアを自由に表現することが可能です。
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)
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