2011年06月15日更新
ヴィンテージマンションの建替え
老朽化マンションの「物理的寿命」と「社会的寿命」
現在の耐震基準が、建築基準法上で定められたのは昭和56年(1981年)のこと。これより以前に計画された建築物は「旧耐震」と呼ばれ、法律上の耐震基準を満たしていない場合があります。とくに多くの区分所有者を有する分譲マンションは、耐震補強をしようにも、その多額な工事費の負担について管理組合の合意形成をはかることが容易でなく、今後問題化するのでないかと指摘されています。
都心のヴィンテージマンションも例外ではありません。今では見られない個性的なプランニングや経年が醸し出す味わいが魅力となって、昨今注目を集めているわけですが、住んでいる人からすれば、できることなら地震への不安を取り払いたいと願っているのではないでしょうか。昭和40年代に建てられたマンション創生期の物件は、そもそも利便性の良い場所に散見されるのですが、せっかくの好立地も建物の耐震性能次第でその資産性に影響が及ぶとすれば、本来評価され得るべき価値の損失にもつながりかねません。
さらに、老朽化マンションの抱える悩みは多項目に広がります。例えば、上下階の音の問題や断熱性能、段差の多いつくりなど。これらはトラブルというよりも、設備や技術の進歩によって、世の中全体の基準が上がってしまったがゆえに、そして高齢化など社会構造が著しく変化したことにより、時間とともに大きく性能の、あるいは容認できる基準との差がひらいてしまったと思われます。改善(リフォーム)で解決しようにも、マンションは一人でできる範囲が限られていることもあり、問題を一掃するのは容易ではありません。
鉄筋コンクリートでできた躯体自体は、しっかり修繕管理さえしていれば相当長持ちするのではないかといわれています。しかし、現在老朽化マンションが直面する問題は、そのような建物の「物理的な寿命」以上に、「耐震性や省エネに対する価値観の高まり」に代表されるように、住まいとしての適合度合いが時代に取り残されていく「社会的な寿命」の方がクローズアップされてきたのではないかと捉えられています。
また集合住宅はそのスケールが大きいことから、街の景観に与える影響が小さくありません。古い団地が建替えられたことで、街に活力が戻った、地域の安全性が増した、といった事例はたくさんあります。阪神淡路大震災を機に建替えの機運が高まった「同潤会青山アパートメント」(現在の「表参道ヒルズ」)などはその代表例でしょう。地域の期待、社会的な影響力、そういった意味でも老朽化マンションの行方は今後ますます注目されていくはずです。
情報収集と「個」の見極め
現在、耐震補強に関する支援制度はさまざまな取り組みがなされています。築年数の古いマンションの管理組合は、法令や助成制度の掌握、必要に応じた勉強会の参加まで「情報収集」は重要な手段のひとつになってきます。また今後増加することが予測される老朽化マンションの建替えに関しても、問題の解決がスムーズにはかれるよう関連法が制定されています。
建替えに関する法で、最も関わり深いのが「マンション建替え円滑法」です。いまあるマンションをいったん壊して、新たに建てる場合、これまでは抵当権(住宅ローン等)の抹消や法人格のない管理組合の制限された活動、登記などの手続きの煩雑さなどが計画の進捗を妨げていました。そこで「マンション建替組合」の設立や「権利変換」などを定め、円滑にプロジェクトを進めるためにできた法律が「マンション建替え円滑化法」です。
不動産は同じものが二つとありません。情報収集は大前提ですが、マンションの建替えを成功するには、独自の良さを引き出すアイデアが求められます。制限の範囲内で、立地の特性、隣地の状況などを踏まえ、いかに魅力的な住まいに変われるか。ヴィンテージと呼ばれる名作マンションの行方は、個の見極めと柔軟な発想が握っているといえるでしょう。
■老朽化マンションの問題と再生
■マンション建替え円滑化法の活用
全国初の「円滑化法」適用マンション「アトラス諏訪町レジデンス」。「マンション建替え円滑化法」による組合施工マンションの第1号です。延床面積は従前の2倍以上になり、背の高いエントランスや地下駐車場も実現しました。平成17年7月完成。
- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)