2011年07月13日更新
分譲マンションならではの落とし穴
マイホームを買うとき、ひとは誰でもそこで暮らす光景をイメージしながら物件を探します。壁紙の色やソファのデザイン、窓から見える眺めなどを、です。しかし、現実に不動産を買うプロセスには、生活シーンとは関係のないところでさまざまな知識や判断を必要とします。重要なことほど目に見えず、またそれが住宅の種別によって内容がずいぶんと異なるのが厄介な点です。
例えば、土地に建物を建てようとする場合、まずはじめにしなければならないのは、敷地の境界線を明確にすることです。敷地の境界が明らかでなければ、面積を確定することができず、建物の大きさ(の制限)が決まらないからです。もし隣地所有者の同意のとれた「境界確認書」が作成されていなければ、まずその作成に取り掛からなければなりません。相当の手間と費用を覚悟しなければならないでしょう。
さらに、上下水道や地域の制限・規制、地盤(地質)なども調べつつ、同時に省エネやセキュリティなど建物の性能の方針も固めながら建物の大枠を決めていきます。事前に知識を得ておかなければ、段取り良く仕様や設備を決めていくことができませんから、施主の学習態度はおのずと重要になります。それを怠るとあとあともっとこうしておけばよかったと後悔するのは自分ですから、汗をかいて調べるしかありません。
一方、分譲マンションを買うならば、そのようなプロセスは一切省略することができます。境界線を気にする必要もなく、建ぺい・容積率や住宅性能のレベルを詳しく知らずとも、法にのっとった十分優れた建物を分譲主が用意してくれるからです。地盤についても支持層を呼ばれる堅固な地下まで杭を打つため、地震で建物が傾くといったことはまず起こりません。だから詳しく勉強しなくても安心を得た気になってしまうのでしょう。
しかしながら、住まいを購入する上では必要に迫られるかどうかにかかわらず、よく調べておく情報があります。知らなかったでは済まない大きなトラブルにつながる可能性のあるもの。例えば、液状化などはその代表的なリスクのひとつといえるかもしれません。
一戸建てを建てる場合なら必ず地質を調べ、地盤の状態に応じて、地質改良を施したり、構造を選択したりします。したがって液状化のリスクに触れる機会があるわけです。しかしマンションにはそのような場面がありません。液状化問題に触れる機会が必然には訪れないのです。
住まいはその機能を果たせなくなったときの代償があまりにも大きいがために、消費者保護の法令が必要に応じて整備されてきました。手抜き工事撲滅のための「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(2000年)、耐震偽造事件を受けてできた「住宅瑕疵担保履行法」(2008年)などです。しかしながら、液状化に関しては、その予測を確定することができないこともあり、個別の保護の対象にすることは考えにくいといわれています。さらに、自宅は被害を合わなくても、地域のライフラインが寸断されたり、自己の対処ではどうにもならないことも液状化現象の特徴といえるでしょう。したがって、その被害の深刻さを考慮すれば綿密な事前調査がどうしても欠かせないのです。
新居のイメージをめいっぱい膨らませるためにも、建物の基礎である地盤や構造はしっかりと事前に学んでおくことが肝心です。
【参考記事】
■東京の液状化予測マップ
■東京湾の津波対策見直し
■東京の土地の標高を調べる
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)
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