2011年10月05日更新
免震構造の基礎知識
震災以降、免震構造に関心を寄せる人が増えています。免震構造とは、建物と地盤を切り離すことで地震の揺れを建物に直接伝えにくくする方法です。切り離した間には、アイソレーターとダンパーの2種類の免震装置をはさみます。
マンションでは、積層ゴムという、鋼板とゴムを交互に幾重にも重ね合わせた装置がアイソレーターとして使われています。鉛直方向に固く、水平方向に柔らかい性質を持つため、地震の横揺れ(地震力)をこの装置が減衰させるのです。
実際どれくらいの効果があるのかというと、例えば東日本大震災のとき、免震構造にリニュアルした「三越本店 本館」では転倒した展示物はたった1点だったと聞きました。何千、何万という数の商品がならぶ大型デパートで、被害はほぼ皆無。この結果は免震の効果を十分実証していると考えてよいと思います。
免震の知識を得ると、必ずといっていいほど浮かんでくる疑問があります。まずひとつは横揺れには効果的でも、縦揺れには効き目があるのかどうか。これはアイソレーターの性質上、縦揺れの地震には効果がありません。その他の建物と同じです。
次に、万が一積層ゴムに交換の必要性が出てきた場合、どうするのか。そもそも何年持ちこたえることができるのか(耐久年数)。まず交換はジャッキアップして入れ替え作業をします。普通の人はイメージできないでしょうか、前述の三越本店など既存の建物を免震にリニュアルすることを思えば、積層ゴムをはめ込む作業自体は前例のあることがおわかりいただけるかと思います。ましてや新築の建物は、はじめから免震装置の場所を確保して建てているわけですから、決して困難な施工ではありません。
さらに耐久年数ですが、公式には60年といわれています。しかし、本来ゴムの耐久性は優に100年、半永久的ともいわれています。1900年以前に建てられたオーストラリアの橋に使われている天然ゴムは、100年経ったあとでも、劣化は表面から5mm程度でそれより内側は竣工当時の性能を十分維持していたことが確認されています。現在の合成ゴムは当時の天然ゴムより相当性能が向上していると同時に、そもそもゴムの劣化要因である紫外線やオゾンなどから比較的守られた環境下に置かれることも考慮すれば、耐久性への懸念はその効果を上回るものではないと考えてよいかと思います。
最後に、免震を知る上で是非とも理解しておきたいメリットを記しておきましょう。それは地震の揺れが伝わりにくい構造をいかして、柱梁の軽減やこれまで実現できなかった中高層の壁式構造が可能だということです。
下の画像は、表参道にある「ブラダブティック」ビルの画像です。この建物は、大きなガラスブロックを組み合わせて外枠を形作り、なかは吹き抜けだらけで、なんと柱が1本もありません。地震が多い日本の建築基準法では、通常このような耐震強度の低い建物は建築許可が降りない、つまり建てることができないのですが、実現できたのは免震構造の採用に他なりません。
最近では、壁が薄く、大きな窓ガラスの免震マンションが(まだまだごくわずかですが)見られるようになりました。免震は地震のときだけ効果があるという考えは間違いで、スッキリと開放感のある住空間を作る役割も果たすのです。
【参考記事】
■好立地の免震マンションを10棟ピックアップ
■いつきてもおかしくない”大地震予測”
表参道<プラダブティック>
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)