2011年11月09日更新
免震と制震の基礎知識<番外編>
前回、「免震の基礎知識」と題した記事を掲載しました。そこでは免震構造の利点や耐久性の高さに触れたわけですが、今回は<番外編>と称し、あまり語られない免震のリスクポイントをまとめてみたいと思います。リスクというとマイナスのイメージがありますが、確定されたデメリットではありません。あくまで想定されうる事としてご覧ください。
2つあります。まずひとつは、地震で建物が揺れたあとに、元の位置に寸分たがわず戻れるのか、つまり積層ゴムが少し歪んだままで止まってしまう恐れのあることです。この現象を「残留変位」といいます。
免震建物では、残留変位は最大50mmと想定しています。つまり5センチ程度は積層ゴムが変形したまま元に戻らない可能性がある前提で設計をしているのです。ちなみにある積層ゴム製造メーカーの調べでは、東北太平洋沖地震の際にみられた残留変位の最大でも10mmだったそうです。余震が継続的に起こったことで徐々に元の形に戻っていったのではないかと推察していました。
もうひとつは建物の重みで積層ゴムの高さが減少する「クリープ変位」です。積層ゴムは水平方向にやわらかく、鉛直方向にかたい性質を持っていますが、長時間支えていることで若干の変形が起こりえます。60年後を推定した実験では、2~3%の変位が、つまり250mmの高さの積層ゴムであれば5mm程度減少する恐れがあることになります。これも設計に加味される数値(クリアランス)として認識されています。
制震についてもひとつ述べておきましょう。これはリスクではありません。ありませんが、捉えようによっては「なんだそうなのか」と思う人がひょっとしたらいるかもしれず、勘違いしないよう記しておきます。それは制震の効果です。
分譲マンションで採用されることの多い、柱と柱の間に設置する間柱型鋼板ダンパーは、極めて強い揺れが起き、建物の骨格である柱や梁にまでダメージが及ぼうかというときに、鋼板の中間部があたる極軟鋼が変形することで揺れのエネルギーを吸収して建物へのダメージを抑える役割を発揮します。つまり制震装置は建物を守るための最終兵器なのです。
だから、鋼板ダンパーが変形するまでは一般的な耐震構造と同じ揺れ方をします。したがって、制震構造*とは、「揺れを抑える(正式には地震力を低減する)免震」とは異なり、「建物に資産価値の低下につながる恐れのある損傷を免れるための手段」だと理解してください。
鋼板ダンパーは、変形してしまうと交換するのに材料費だけで1枚あたり50万円もかかります。ちなみに、ある大手ゼネコンの話では、東北太平洋沖地震で東京で鋼板ダンパーが変形した例はみられなかったそうです。震度5強を上回るくらいのよっぽど強い地震がこない限りは、変形しないことが証明されたわけですが、同時にこのことは揺れ方は耐震と変わらないことを意味しています。*制震に関する記述は「間柱型鋼板ダンパー」を対象にしています。
【参考記事】
■好立地の免震マンションを10棟ピックアップ
■いつきてもおかしくない”大地震予測”
■免震の基礎知識
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坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)