2012年05月16日更新
「都市型コンパクトマンション」における新たな発想
妄想とはこわいもので、確かめもしないままに、”あること”を既成概念として頭の中に閉じ込めてしまう場合があります。ちょっと唐突な書き出しになってしまいましたが、何が言いたいのかというと、「都心のシングル世帯も、自己所有のマンション内のコミュニティに、関心を持っている」ということです。
もう数年前ですが、コンパクトタイプの分譲マンションを専門に手がけるデベロッパーの担当者からこんな話を聞きました。「入居者パーティを試しに企画したら、予想以上の出席者があって驚きました。”同じ屋根の下に住む人を知っておきたい”という思いはじつはシングル世帯のほうが強い。顧客ニーズを見直すきっかけになりました」と。
コンパクトマンションはおもに都心部で供給され、総戸数もそれほど大きくないのが特徴です。建物の形状もスリムなタイプが多く、大きな集会室はその必要性もさることながら、物理的にも設けにくい。前述のパーティでは、わざわざ近所の公民館を借りて実施したもようです。残念ながら、現在この企業は積極的に事業展開をしていません。
最近のマンション市場では、総戸数が数百戸にもなる大規模物件が珍しくありません。そのような物件は、スケールメリットを活かして、様々な共用施設を設けます。子どもが雨の日でも遊べる「キッズルーム」や、貸し切って利用することができる「パーティルーム」など。一般的なマンションには集会室程度しか用意されないわけですから、住む人にとっては魅力が増すといえるでしょう。また、ハードだけではなく、専門業者に委託をして、趣味の集まりや季節のイベントを設け、コミュニケーションの取っ掛りを用意するデベロッパーも増えています。ソフト面のバックアップも含めて、絆を深めるための働きかけが進んでいると言えるのですが、あくまでこれも規模の利点の範疇内です。
したがって、「規模に連動した付加価値の違い」はますます差が広がっているようです。大規模では「コミュニティが重要」とアピールしておきながら、小規模になると一切その手のウリが聞こえてきません。それはその必要がないからではなく、うたいようがないからです。購入層は前述したとおり、明確な指向の違いがあるわけではありません。
そこで、ちょっとこれは面白そうだなという物件をご紹介します。マンション名は「A-standard」。渋谷桜丘と本郷三丁目で分譲します。分譲会社は京阪電鉄不動産。首都圏では決して知名度の高い企業ではありません。だからでしょうか、モデルルームが公開しているにもかかわらず、このマンションに関する情報は、業界内でもまだあまり広がっていないようです。
特徴は小規模にも関わらず、「コモンスペース」を用意していること。しかも、ありがちな待合いのソファ的な家具ではなく、カフェの真ん中に置くような大きなテーブルを用意します。「隣にいる人と、何か話をしなければならないような雰囲気にはしたくなかった」とはプランナーの弁。「ただ同じ空間にいるだけでも、無意識にコミュニティを感じとるはず」「自然体でいられる、居心地の良いスペースを作りたかった」。規模の大小に関わらず、コミュニティを育てる工夫はある、そんな可能性を大いに感じさせるコンセプトだといえるでしょう。
専有部もことさらに高級感を演出するのではなく、「フレキシブルな器」をイメージした内装が印象的。とくに半分のスペースにタイルを敷き詰めた「DOMA(土間)」のあるプランは見どころ。ゴールデンウィークにモデルルームを公開し、「もう一度行きたい」という見学者が50%近くにも達するという、驚きの数値(再来率)をたたき出しているようです。
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「A-standard 渋谷桜丘」DOMA(土間)のあるモデルルーム。キッチンには洗剤やスポンジも置かれ、生活感を感じられるコーディネート。販売センターには、「コモンスペース」に置かれる家具が展示されている。
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)