2011年10月26日更新
「癒しの空間」を聞かれて
東京メトロの駅構内に置かれているフリーペーパー、
『メトロポリターナ』
編集部に、「癒しの空間」について取材を受けた。
癒される空間。あなたなら、どんな家を思い浮かべるだろう。
取材を機に私も、癒される部屋についてあらためて考えていると、
ふと、「寛げる」部屋と「だらしない」部屋は違うと思い至った。
「寛げる」部屋は、肩肘張らないでリラックスできる部屋。
のんびり寝そべったり、ゆったり座って食事ができたりする部屋だが、
そこにはある程度の清潔感が欲しい。
そこそこに清潔であり、できることなら、
誰かを気軽にお茶にでも招けるぐらいのお洒落感があれば上出来である。
「だらしない」部屋は、そうではない。
前回掃除をした日が思い出せないような、乱雑で汚れている部屋は、
居るだけでイライラして、幸運も寄ってこないような気がする。
こんな部屋では寛げない。
エラそうなことを言っているが、私だって片付けが苦手であるし、
恥ずかしながら掃除も、毎日最低限しかやっていない。
だからこそ、気持ちがすっきりする、寛げる部屋づくりは
まず掃除、整頓からと身にしみて思うのである。
こう書いていて思い出したことがある。
先日たまたま見たNHKのインタビュー番組に、
芥川賞作家の西村賢太さんが出ていた。
中でアナウンサーが、
「西村さんが部屋の写真を持って来てくださいました」と
いうようなことを言った。
部屋の写真が映し出されるまでのわずかな時間、
私は大変失礼ながら、西村さんの部屋は乱雑だろうと想像をめぐらせていた。
多分そこは昭和ムードいっぱいの和室で、
座卓には吸殻が山盛りの灰皿、書きかけの原稿に新聞、
その周りには洋服や雑誌が重ねられ。。
そう、つまり私はステレオタイプな「だらしない」部屋を
勝手にイメージしていたのだ。
しかし。
映し出されたのは、私の失礼な想像とは正反対に、
大変綺麗に整理され、きっと清潔でもあろう西村さんの
リビングダイニングルームの写真だった。
えっ、ここがあの『苦役列車』の作者の家。。
私は重ねて自分を恥じた。
西村さんの部屋は、全然だらしなくなんかなかった。
自分で「こう見えて几帳面」と仰っていた通り、整理された部屋を見て、
きっと西村さんの頭の中も、こうやって整理されているんだろうなぁ、
だから手書きで小説なんかも書けちゃうんだろうなぁと、
反省した次第であった。
フリーペーパー『メトロポリターナ』の撮影現場におじゃまして。「ワンルームなら、観葉植物で各コーナーを仕切るのもいい」とアドバイスしたところ、実際にスタイリングしてくださった。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。