2010年05月26日更新
「リフォーム」と「リノベーション」の違い
最近、巷でリノベーションという言葉を見たり聞いたりする機会が増えてきました。
リフォームとリノベーション、どちらも既存建物の改装や増改築を指す言葉なのですが、実は明確な違いも定義も正式にはなく、工事を手掛ける建設会社や中古住宅を扱う不動産会社、あるいは設計を手掛ける建築家たちが、それぞれ違った思惑で使っている言葉なのです。
「リフォーム」という言葉は早くから使われているので、一般名称として広く認められているでしょう。建築的には以下の内容を含んでいると考えられます。
・ 改築(面積を変えずに間取りの変更)
・ 改装(内外装の模様替え)
・ 増築(床面積を増やす工事)
・ 修繕(設備修理や雨漏りの修繕)
・ 耐震補強(地震に対する構造補強)
・ 断熱改修(壁や窓などの断熱性能を向上させる)
・ 設備刷新(水周りやエアコンの交換や設備のやり直し)
・ 減築(床面積を減らす工事)
リフォームの語源である「Reform」という単語は、社会制度や政治等の改良、改善を意味しているので、外国でリフォームといっても理解して貰えません。それに対して、リノベーションの語源である「Renovation(発音的にはレノベーション?)」という単語は、オリジナルの英語でも建物修繕、改善、刷新を意味し、実は日本の「リフォーム」という言葉にほぼ相当する言葉なのです。
しかし、日本では「リノベーション」が後発組なので、まだ馴染みがありません。そこでこの言葉が持っている、新しいイメージを上手く利用して、大小全ての規模の工事を含んだ「リフォーム」に対して、大規模な全面改修工事だけに絞った言葉として普及させようという動きがあるようです。
その動きの中では「リフォーム」は内装模様替え(壁紙の貼り替えや床の張替え)や設備刷新(キッチンやトイレの交換、エアコンの付け替え)といった小規模な工事で、あくまでも機能復旧なのに対して、「リノベーション」はより大規模な、全面的な改修と定義して、工事を行うことで「新築時以上の価値を建物に持たせる」ことができると定義しているようです。
他にも、構造のみを残し(時に補強も含む)、内外装や設備を全てやり直して、建物を再生させるスケルトン(骨組み)・リフォームや、全面改装を意味するフルリフォームや、デザイナーが関与するデザイナーズ・リフォームといった名称もあるようです。
実際は、既存建物をどのように捉えて、機能的な要求とクライアントの希望、構造や工法、さらには予算やスケジュールを考えながら、どのように「組替え直し」てゆくかという中身が重要で、名称自体はあまり深い意味を持っていないと思っています。ただ、名称が持っているイメージというものが確かにあります。現時点では「リフォーム」は既製品のユニットバスやキッチンを使ったどちらかと言えばお仕着せの内装工事、「リノベーション」は若い世代の人が好みそうな白い壁とフローリングの画一的なデザインといったイメージがあるのではないでしょうか(あくまでも私個人の感想ですが)?
個人的には、名称だけで特定のカラーがついてしまうのがいやなので、古くからの「リフォーム」に建築士の資格をもつ建築家が設計する、ちょっと上級な計画であるという意味と、クライアントのデザイン的希望を尊重するという意味を込めて、「デザインリフォーム」という言葉をしばらくは使っていきたいと考えています。
工事途中の写真です。リフォームでもリノベーションでも、工事現場の様子、
工務店の段取り、職人さんたちの動き方には違いはありません。
ニューヨークでの修行時代に設計していたリノベーションです。寸法の単位がフィートとインチだったのは、
日本のリフォームとの大きな違いでした。
東京に戻ってきてから設計したリフォームの実例です。
確かに図面の書き方や、設計者と工務店の関係などの違いはありましたが…
実際に設計や工事をする側の心構えはほぼ同じですが、
クライアントがもっている言葉のイメージが一番大きな違いかも知れません。
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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