2010年10月20日更新
住みながらの段階的リフォーム
いつものリフォーム事例の紹介から一味変えて、今回は住みながらのリフォームの工夫についてご紹介いたします。渋谷区の高級住宅街にある築32年の住宅リフォームを事例にとって、工事の条件であった「住みながらのリフォーム」の難しさと設計者の工夫を説明いたします。
一般に「住みながらのリフォーム」を選択するには、色々な理由が考えられます。今回は高齢のお母様がご一緒に住んでいることや、仮住まいするには荷物が多すぎることなどから、工事費用は多少割増になってしまうことはご承知の上で、在宅リフォームとの判断になりました。
住みながらのリフォームでは、住人であるお施主様一家に大変な負担がかかります。普段暮らしている生活の中に、第三者である職人さんたちが入り込むストレス、さらに愛着ある我が家が壊されてゆくこと(後ではきれいに直しますが…)を目の前で見るストレス、工事中の音や粉じんなどの物理的なストレスなどが挙げられます。施主側と同様に、施工者側にも大きなプレッシャーが掛かるのが、住みながらのリフォームの特徴です。朝と夕方に時間を取って、養生の取付けと取り外しをしなければならない段取り的な面倒さと、工事中常にお施主様に見られ、音や粉じんに対するる気配りをしなければならないメンタルな難しさが重なります(やはり誰もいない現場で、好きな音楽を鳴らしながら、自分のペースで工事をする方が職人さんたちは楽なのです)。
お施主様と職人さん、両者のストレスを少しでも軽減することを考えて、段階的なリフォームを行う計画を立てました。簡単な部分から工事を始め、面識のないお施主様一家と職人さんたちお互いに慣れてもらうこと、ある程度間隔をあけた工事で皆がストレスを大きく貯めないこと、工事の区分を区切ることで生活動線を確保することを意図しての計画です。
第1段階 外壁と屋根改修
この段階では、家の中には入らない外部からだけの工事で、工事を行っている状況に慣れてもらうこととしました。この工事の終わりに、庭にプレハブの納戸を建てて、次の工事に備えました。
第2段階 二階内装工事
お施主様には一階に寝室を動かしてもらい、二階の余計な荷物をすべて納戸に入れてから工事を行いました。かつては大きな一部屋で寝ていた、お施主様ご夫妻と二人のお子様をそれぞれ別個の寝室へと分解しました。この間は、玄関から二階への階段を養生でブロックし、お施主様たちは庭からの出入りをお願いしました。
第3段階 一階内装工事
ご家族の皆様は二階に移ってもらい、一階の耐震補強も含めた内装リフォーム工事を行いました。キッチンと浴室は今回のリフォームでは触らないこととしていたので、毎日夕方には水回りまでの動線を清掃し、夜の食事と入浴はできるように段取ってもらいました。この間は、玄関は第二段階の逆に使ってもらいました。
約半年かけての全面リフォーム工事となりましたが、大きな問題を起こすことなく、何とかうまく工事を終わらせることができました。最後の段階がお施主様にとって一番大変だったとのことでしたが、その頃には職人さんたちとも十分に面識があったので、何とか乗り過ごすことができたとのお話しでした。
工事がスムーズに進んだのは、もちろんお施主様の理解と職人さんたちの努力のお蔭でしたが、物理的にも各階にトイレ・洗面があったことと、庭と玄関の二方向の出入り口があったことも重要なポイントでした。これらが各段階で確保できたことで、お施主様の日中の生活が成り立ち、危険な工事領域に入り込む必要がなかったことは、お互いのストレスを軽減することに大いに役だったようです。
設計者側としては、工期を十分に確保して、無理のない段階的なリフォームを計画できたこと、さらに各時点で何の工事が行われていて、どのような段取りとスケジュールで、次の段階に移ってゆくのかを、きめ細かくお施主様にご説明することで、参加者全員が安心しながら工事を進めることができたことも、住みながらのリフォーム成功の一因だったと思っています。
1階の庭に面したリビングは、工期を考慮し、
部屋レイアウトはそのままで仕上げ材を全面的に変更し、
雰囲気ある空間に仕立てました。
天井が一部下がった部分に袖壁を作り、
耐震補強としています。造り付けの家具も、
工場で作った箱を組み合わせることで、工期を短くしています。
工事中の様子です。扉奥に見える玄関と
二階への階段で動線を分けて工事を進めました。
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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