2010年12月15日更新
高級マンションリノベーション 窓と天井編
リフォームの相談で最近増えているのが、高級マンションのリノベーションです。まだ築浅のマンションを全面的にリノベーションしたいというお話も多く、今回紹介する築5年のもそんな事例の一つです。
5年ほど前から物件購入のご相談を頂いていたこのお施主様は、新築・中古に関わらず、とにかく気に入ったロケーションと間取りのマンションを見つけたいとのことで、物件探しをお手伝いしていました。インテリアとライフスタイルには強いこだわりがある方だったので、中古マンションの場合はもちろん、新築でも気に入らない内装の場合は、全面リノベーションを前提で探した結果、見つかったのがこのマンションでした。
流行の高級インテリアや最新の設備を備えた新築マンションのショールームを数多くご覧になっているうえ、外国での生活経験も長いお施主様でしたので、リノベーションに期待するお気持ちもとても大きく、それほど傷んでいないマンションでしたが、ほぼスケルトンでの大規模リノベーションを行うことになりました。
既存の間取りは、ダイニングとリビングがすりガラスの可動式パーテーションで分かれたスタイルで、一般には高級とされている空間の取り方でした。しかし、6人掛けのダイニングテーブルを置くには狭いダイニングと、三方向がガラスとパーテーションで、壁がほとんどない家具の置き場に困るリビングとなっていました。欧米でもダイニングとリビングが別になっていることはハイグレードな間取りとされていますが、それぞれの広さがこの間取りの倍程度は必要とされています。また、リビングと分かれた正式なダイニングルームがある場合は、家族が気楽に食事できるイート・イン・スタイルのキッチンは欲しいところです(これがないと折角のダイニングがファミリールーム化してしまう恐れがあるのです)。また、壁が少ないリビングは家具レイアウトも難しく、落ち着かない空間になってしまいがちです。これらを検討の上、ダイニングとリビングは一つに繋げることとしました。
リビング部分の改変で最も特徴的だったのは、壁一面だった窓をほとんど塞いでしまったことでしょう。窓が大きいと、パッと見た目は解放感があって気持ち良いものですが、実際に暮らしてみると家具や調度品のレイアウトが難しく、部屋の明るさが日差しの状態に大きく依存するので、結局はレースのカーテンを掛けたりで、実用性には乏しいことも多いのです。特に今回のこの部分の窓は外への見晴らしがそれほど良くなかったので、風を取り入れることができないFIX(嵌め殺し)部分は、全て手前からボードで塞いでしまいました(窓はマンション共用部分で、勝手に取り外し不可なので、断熱材を入れたうえで内側から塞いでいます)。同じアングルで窓を塞ぐ前と塞いだ後を比較した写真を比べて貰えれば、その違いは歴然でしょう。
折り上げ天井を塞いだのも、通常のリフォームとは違う趣向かもしれません。天井の高さは高いほど良いとされているので、構造の梁や天井埋め込みのエアコンやダクトを避けた位置を折り上げ天井として数字上の高さを稼ぐのが、現在の日本のマンションでの通常手段のようです。折り上げ部分に間接照明が入っていると、更に華やかさが増すとされています。
しかし、実は天井のデザインと家具のレイアウトは密接な関係があるのです。折り上げ天井の位置に関連なくダイニングテーブルやソファーを置くと、居心地が悪い席ができたり、照明の配置に困ってしまうことが多々あります。またエアコンの風が直接当たる寒い場所や、アートや調度品などを据えて部屋の中心を作りたいのに、折り上げ天井が邪魔をしたりすることまであるのです。これらの事を考慮して、このリフォームではダイニング部分は抑えた天井高さで、リビングはそこより少し高い位置で天井をフラットに作り変えています。結果的に、数字上の天井高は低くなっているのですが、家具のレイアウトや照明計画まで含めると、以前よりスッキリとしたシンプルな空間に纏まったのではないでしょうか?
このように、高級とされるマンションでも、まずは売れることを目的に、パッと見た目を重視した、華美ながら無駄なデザインも多いので、住人のライフスタイルを考慮すると、色々と手を入れた方が快適になるケースも多いようで、それが築浅の高級マンションのリノベーション依頼が増えて要因のようです。
ダイニングの位置で天井の高さを変え、
空間に変化をつけている。
照明やエアコンは天井に埋め込み、
圧迫感をなくしている
窓を塞いだ壁には腰高のカウンター収納を設け、
その上部に絵画や彫刻を飾っている。ソファー背面の壁には
アンティークの家具とピアノを配置している
リノベーション前後の様子を比べると、
ダイニングとの間仕切りがなくなり、窓が閉じられ、
折り上げ天井がなくなっていることがわかる。
リビングダイニングの改装前後の図面。
家具を配置しにくかった以前に比べ、
ゆったりと家具がレイアウトできている様子がわかる。
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/