2011年09月21日更新
和室のリフォーム
大きな住宅や、マンションのリフォームのご相談では、ホッと一息つける空間として、和室を作ってくれないかというご要望を多く頂きます。和服を着てお茶やお花の趣味の空間として、また桐たんすを置いて着替えの間としたり、小さなお子様やお孫さんがいらっしゃる方や、来客が多い方も寝室として重宝するといったお話を良く伺います。洋室の空間でソファーやイスに座わる生活と、和室でイグサの匂いを嗅ぎながらゴロンと転がってお昼寝するのとで、日常生活の中でオン・オフのリズムが生まれ、ライフスタイルの巾も大きく広がるようです。
今回紹介する事例の一つ目は、広いマンションの奥、隠し扉の後ろに和室を設けた例です。一般に、全体が洋室仕様の空間の中に和室を組み込む場合、どこからどのように和室に入ってゆくか、どこを切り分け線として洋と和を区切るのかがリフォームの難しいポイントなります。こちらでは、食堂の背面壁の一枚を隠し扉とし、その裏に一段下がった通り土間を設け、そこを通り抜けると、他の空間とは全く雰囲気の違った和室がへと導かれるという構成にしています。土間を作ったのは、フラットな床でダイニングから空間を続けてしまうと、あまりにあっけなく和室にアプローチできてしまうので、段差を作ることで、スリッパを脱いで、ゆっくり慎重に歩むことで、和室へと時間を掛けて近づく感覚を作りたかったからです。踏み石や砂利、そしてナグリ仕上げの床の質感は、足の裏で和室の空間を体感することで、一味違った空間へと誘われる雰囲気を作り出しています。和室は、仏間でありながら客間でもあり、ゴロ寝用の休憩室としても使いたいとの事で、デザイン的に随分苦労しました。洋室で使っている材料からの発想で、床柱を鉄刀木(タガヤサン)とするところからイメージを固め紫檀のご仏壇をしまうとのことだったので、収納の内部も紫檀の突板で仕上げ、扉は柿渋紙に桐模様を全体に散らした仕上げとしました。床の間はあまり格式を高くしないよう、竹で棚板を吊る違い棚形式としました。こちらの和室では、遊び心があって、ゲストが来た際に喜んでもらえるような仕掛けを作ってほしいとのご依頼で、このようなちょっとデザインが飛躍した和室になりました。
もう一つの事例は、年配のご夫婦が終の棲家として暮らせるように、リビングと玄関を和風にしたいとのご依頼があったリフォーム物件です。布団敷きの寝室とリビングを襖の開け閉めだけで一体に繋げたいとのご希望で、洋室仕様だったリビングを畳敷きの居間へと変えています。畳は転んでも大けがをしにくい材料で、ここでは特殊な畳を利用することで床暖房も設置しています。和室で多用される引き戸は、バリアフリーリフォームでも重宝されますが、こちらでは、玄関扉以外のすべての扉を引き戸に交換しています。竪桟を強く印象づけた障子や、向こうの部屋の雰囲気が伝わる格子扉、千鳥紙張りの襖と三種類の引き戸で空間の空気感を微妙に違えています。玄関は黒いタイル張りのタタキに、木製の手すりと腰掛を設け、和風ながらお年寄りにも使い勝手がよくなるようにリフォームしています。
洋室のリフォームに比べ和室は特別なルールが多く、設計でも苦労が多くありました。大きくは間取りの作り方、材料の選び方や、仕上げの方法、細かくは床の間の柱や天井の仕上、畳の縁の文様といったところまで、それぞれが連動して和室の格を決めるようなシステムがあるのです。設計の大変さはありましたが、和室ができたことでお施主様が喜んでくださっている様子を拝見して、苦労が報われた気が致しました。
戸建住宅の和室リフォーム事例:雑駁とした洋室が和室にすることで落ち着きのある居間に
木製の手すりと腰掛で、お年寄りにも優しい和風の玄関に
高層マンションの食堂奥に隠された仏間兼客間の四畳半の和室
障子張りの明るい通り土間を通って、和室へとアプローチ
床を一段落し、踏み石と砂利を敷いた本格的な通り土間
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/