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建築家リフォーム

2013年06月19日更新

天然木の突板の魅力

 天然木の突板仕上げは、これまでも特別な造作家具や建具などでは使ってきましたが、特にここ数年は天然素材だからこその力強さや、面白みを上手くリフォーム・インテリアに活用するようになってきました。

 メラミンやポリ合板、更にシート製品での木目の印刷技術は確実に上がってきているので、きれいな木目が欲しいだけであれば、却ってそういった工業製品の方が端正に見えるというお客さまもいらっしゃいます。ただ、手に触る箇所や、人の目が近くまで来る場所に設置する場合は、工業製品ではどうしてもニセモノ感が見透けてしまうので、天然木の突板を使った方がよりナチュラルで奥行きが表現できると思っています。

 因みに、突板とはお寿司を包んでいる木の薄板(経木=きょうぎ)のようなもので、無垢の木材から薄くカンナで削り出したようなシート状の材料のことです。これだけでは薄くてペラペラなので、基材となるベニヤ板に張った上で、家具や建具に使います。一枚の板から同じような模様の板を何枚も作ることができるので、本来的にはエコな姿勢を持った建材といえます。日本ではその厚みが0.2~0.3ミリ程度なので、持ち上げると裏が透けるような薄さです(欧米では0.6ミリ程度の厚突きが一般的です)。芯まで同じ材料の無垢材に比較すると、どうしても重厚感や質感が物足りませんが、その分建材としての安定感があり、当然ながら無垢材に比較すれば安価なことも特徴です。このようなことから、「(安価)人工素材の木目柄→天然木突板→無垢材(高級)」という位置付けになっています。無垢材は湿気や直射日光の影響で縮んだり反ったりする性格がありますので、壁にピッタリとはめる造り付け家具や、条件の違う二つの部屋を繋ぐ建具(扉)などでは、高級リフォームでも敢えて無垢材を避けるケースも多々あります。また、突板の種類によっては、希少なものであると一般的な無垢材以上の価格のものもあるので、侮ることができません。

 そんな天然木突板を使ったリフォーム設計の事例を紹介いたします。一つは黒檀(コクタン)の突板の建具です。黒檀は日本では仏壇に良く使われる木材で、他には高級な楽器でも使われるようです。樹木としては生育が遅く、高価に扱われるため伐採が進んで、希少な材になってしまいました。実は、ここで使った突板も、大手の材料屋さん幾つにも問い合わせてみたところ、「良い木目の黒檀はもう日本にはないのでは?」と言われていましたが、執念で家具屋さんと一緒に探したところ突板屋さんの倉庫に大事にしまわれていたのを見付けたものでした。当初の設計段階から、柄が大きめで濃淡がしっかりしたものを使いたいと思っていましたが、正にそのイメージにピッタリだったので、すぐに塗装サンプルを作って貰ったうえで、建具に仕立てて貰いました。このような濃淡がある突板は、しっかりとウレタンで艶のある塗膜を作ってもらうことでその魅力が増すので、ピアノ塗装に近い形で仕上げて貰いました。マンションの玄関入って正面に見えるリビングへの建具ですが、お施主さまが自宅に帰るたびに、「超カッコいい!」と思うと言ってくれた印象的な建具です。

 2番目は、個性的な突板を使いたいとのご希望のお施主さまと一緒に、突板屋さんに出掛けて数ある木種から特別な木目を選んで、造り付け家具に使った事例です。最近の欧州の輸入キッチンのカタログなどを見ると、木目の濃い部分と薄い部分が交互に混じった、力強い板を使用した事例写真が載っています。そんなものを作ってみたいとのことで、色々とサンプルを取り寄せてみましたが、小さいサンプルではイメージが掴みにくかったので、家具屋さんの紹介で、奥さまと突板屋さんに直接行てみました。色々と見ている中で、部分的に虫に食われて、その個所に雨水が入って腐ったことでユニークな柄となった突板が、お施主さまに心に留まったようで採用することになりました。洗面カウンターに使ってみましたが、サンプルで見たよりも上品で、とても洗練されたイメージの家具が出来上がり、突板屋に同行できなかったご主人さまが羨ましがったモノです。

 天然木の突板を使う贅沢は、それが天然素材なので、世界に1つとして同じものはないオンリーワンなことだと思っています。そしてお施主さまと設計者が探し出すという共同作業があることによって、「思い入れ」が加わって、何よりの魅力に繋がるのではないでしょうか?


突板屋さんに行けない場合は、このように突板シートを幾つか家具屋さんに運んで貰い、
現場でお施主さまと選ぶことも


突板のサンプルでは、樹種による色味やテクスチャーの違いを見ることができるが、柄や細かいニュアンスを伝えてもその通りのものを探してもらうことは難しい


玄関ホールからリビングへの建具に使った黒檀の突板。ピアノ塗装に近い艶で
仕上げ、高級感とカッコ良さを演出した


突板屋さんの倉庫で探した黒檀の突板。右がベニヤに張って手前部分をウレタン塗装で仕上げたサンプル、左が突板のシート。



お施主さまと突板屋さんに探しにいって見つけたオリーブ柄のような表情を持つオーク材で作った洗面カウンター家具







建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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