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建築家リフォーム

2014年04月18日更新

インテリアデザインの多様性について

僕らがお手伝いしたリフォーム事例を見てくださった方から、「よく色々な種類のインテリアデザインを纏めることができますね」と聞かれることが多くあります。「ご自分が好きなデザインはどんなものなのですか?」と尋ねられることも…。確かに、そう言われて見返してみると、ナチュラルモダンなものからクールモダン、エスニック風や香港風クラシカルデザインに、和風もあればアメリカ風もありで、一人のデザイナーが考えたように見えないかもしれません。デザインが多様過ぎて、主体性のないデザイナーと思われるかもしれません。

お施主さま候補の方にお見せしているポートフォリオ(作品集)の冒頭には、こんな言葉を入れています。「一つ一つのプロジェクトには、設計の際にお施主さまと一緒に考えたアイデア、思い出が詰まっています。全体を通したデザイン集としては纏まりに欠けるかもしれませんが、小さなエピソードが詰まった短編小説のように思ってみて頂ければ幸いです」と。実は、この僕らの設計スタンスの基となっているのは、アメリカ留学中に一学期を掛けて取り組んだ学生課題「人形の家」での経験でした。

このプロジェクトは、①5才の子供と一緒に毎週一定時間を過ごしながら、②人形・子供・大人というスケールの違いを考える、③身近にある素材や簡単な作り方をもとに考えるという3つのヒントだけで建築的なプロジェクトを作り上げるという実験的な取り組みでした。4か月間に渡って、「建築家が何をする人かも知らない二人の女の子」と「子供が何が好きかを判らない学生デザイナー」がかくれんぼうやおもちゃ遊び、模型作りなどを通じてお互いを理解しようと努力して、もの作りをする作業は、予想以上に忍耐が必要なものでした。てっとり早く子供が喜びそうな箱作りを一緒にしようと思っても、そんなことよりかくれんぼうをしたいと言われたり、仕掛けのある模型を作って持っていて遊ぼうと思ってもすぐに飽きられたり…。でもそんなことをしながら幾日も時間を一緒に過ごしているうちに、彼女たちも僕がその時間は真剣に遊んでくれることは判って貰えて、段々と仲が良くなってゆきました。ある日に大き目の箱を持って遊びに行った際に、二人がその箱を頭にかぶり外が見えるように目の部分に孔をあけたい、ポニーテールが引っ掛かるのでその部分を切り欠いてと言われたことが一つにきっかけになって、プロジェクトが加速し始めました。それまでのかくれんぼなどを通じて、子どもが好きな空間がカーテンの裏や、机の下などだと判っていましたが、この箱のことで、それが「子供の体にフィットするサイズの空間で、大人からは隠れることができるが、そこからは大人の居場所が見える」、そんな空間が好きなのではないかと仮説を立てることができました。

次の週は、彼女たちの身長を測って、子どもたちは立って入れるが、大人はしゃがまないと入れない1.2メートル角の大きな箱を作って持って行きました。家に運び込んだ瞬間から、彼女たちはその箱がサイズ的も自分たちのために特別に作られたスペースである事を理解し、早速お茶を持って二人だけで箱の中に閉じこもってお茶会を始めました。椅子がないと座れないので以前作った箱を持ち込みたい、窓がないと中が暗いから窓を作って、外の様子を覗くための覗き穴が欲しいと、その箱をカスタマイズするお願い(指令?)が続々と出されました。彼女たちがボックスにペンで書いた通りに孔をあけて、窓のフレームを入れてゆきました。別れ際には、次の週に外でこの箱に友達を読んでピクニックしたいので、濡れても良い工夫をしておいてほしいと言い渡されました。箱を分解して運べる工夫をして、レインコートのように包めるビニールシートも用意して翌週訪問したところ、早速に裏庭に箱を持って行って、公園の花を摘んで箱を飾りお友達を迎えてパーティーとなりました。呼んだ友達に、二人の子供がいかにしてこの「ケンジが作った箱」(ケンジが僕の名前で、このような名前にしてくれました!)を作り上げたかを誇らしげに説明してくれたことは、本当に設計者として嬉しい体験でした!この段階で、時間切れとなってしまったので、このプロジェクトを更に進化することはできませんでしたが、このプロセスを通じて学んだことは、A.子供(施主)と僕(建築家)は簡単にお互いを理解できるものではなく、時間を掛けて仲良くなってゆくこと、B.デザインはどちらかが決めるものではなく、お互いがアイデアを出し合って、それをキャッチボールしながら、より良いデザインに昇華させてゆくこと、の重要さでした。

長い話になってしまいましたが、このようなデザインスタンスで設計しているので、それぞれのお客さまの好みを反映した多様なデザインの空間が出来上がっているのだと思っています。デザイナーを自認するような方からは主体性がないと非難されてしまうかもしれませんが、自分にとっては如何に丁寧にキャッチボールをしてきたかを示す、勲章のようなものだと思っております。



学生課題「子供の家」の設計プロセスを纏めたシート。かくれんぼや箱を使った遊びが、
子どもと建築家のキャッチボールを通じて一つのプロジェクトに纏まってゆきました


子供の家が完成した時に、近所のお庭で、
お姉さんや友達を呼んでのパーティー時の様子です


カガミ・デザインリフォームの多用なデザイン。シンプルモダンからクラシカルなもの、アメリカ風から和風、リゾートテイストからスーパーモダンまで幅広いのは、施主のテイストを丁寧に読み取った結果だと思っています




建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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