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建築家リフォーム

2014年05月22日更新

壁仕上げ材の考え方・楽しみ方

 以前、リフォームの際の「床材の選び方」についての記事を書きましたが、今回は床に次いで重要で、かつ部屋の雰囲気を大きく左右する壁仕上げ材の考え方・楽しみ方について説明します。高級とされるマンションでもほとんどの壁仕上げはビニールクロスが一般的です。玄関正面やリビングまたはダイニングの一部の壁にはキラッと華やかな大理石やタイル等の質感がある素材を使うことはありますが、その他の壁や天井はビニールクロス仕上げとなっています。

 ビニールクロスは日本で独自に発展したユニークな素材です。張りやすく、張り替えしやすく、下地のアラが目立たず、色やテクスチャーの種類も豊富で、消臭や汚れ防止・防カビなどの機能もついた製品が選べて、何よりコストが安いことがメリットです。ただ、どうしても大きな面積を張るとビニールらしい安っぽさが出てしまう事や、壁紙を継いだジョイント部分の目地が目立ったり、時間が経ったときに目地からペロンと剥がれてしまった際には、目を覆いたくなるような安っぽさが露呈してしまいます。欧米で主流なのは塗装、いわゆるペンキ塗りの仕上げです。一般方はペンキの方が簡単で、壁紙の方が費用も高いと思っている方が多いようですが、塗るための下地の処理(ボードの継ぎ目にパテを塗っては削りの作業を繰り返すこと)に時間が掛かるので、2倍ほどのコストアップになってしまいます。ただ、地震が多い日本ではどれだけ丁寧に下地を作っても、建物の揺れが原因でヒビが入ってしまう事があります。ただ、サラッとした触感で、大きな壁一面が仕上がっているのはとてもきれいです。色選びも自由に楽しむことができます。頑張れば自分たちでDIYで塗ることも可能ですし、黒板塗料など機能的にも楽しめる塗料が増えてきています。

 コスト的にクロス(壁紙)と塗装の中間を狙ったものとして、塗装用壁紙のルナファーザー、自然素材を使ったクロスのノイエローヴなどの製品があります。また、塗装よりも価格は張ってしまいますが、クロスを張ったパネルを連ねたように見せるクロスパネルや、壁に框状のフレームを作った上で塗装するパネル塗装などの工夫で、ユニークな壁仕上げを作り出すことも可能です。

 もう一つ大きな潮流としては左官塗り壁があります。土壁や珪藻土、漆喰等の伝統材料を左官屋さんがコテで塗ってゆくタイプの仕上げ方法です。帆立貝の貝殻を使った製品や磨いて輝きを演出できるアンティコスタッコ、樹脂を混ぜて乾燥時間を短くした製品なども出ており、壁のインテリア素材としてのバリエーションも豊富になってきました。仕上げに厚みをが感じられて、調湿作用もあるので人気ですが、塗装と比べても2~3倍ほどの費用が掛かってしまう事がネックです。このほかには、木材を張ったり、石やタイル、鏡やガラスを使うことも可能です。木材では羽目板(ハメイタ)と呼ばれる壁仕上げ用の材料がありますが、ジョイント部分のディテールが古びた感じに見えるので、特別に天然目の突板を誂えたり、フローリング材を壁に転用するなどの工夫も可能です。石やタイル張りの壁は木材張りよりさらに重厚感があります。重厚感とは反対のイメージですが、鏡やカラーガラスを使うことで、不思議な奥行き感を演出することも可能です。ただ、これらの材料は大量に使うとしつこい感じになってしまうので、これぞといったアクセント壁で採用するのがお勧めです。その際には照明の当て方も一緒に工夫したいものです。

 壁仕上げ材を選び際のポイントしては、①部屋毎のベース仕上げ、②アクセントでの演出、そして③メンテナンス性の3つの観点で考えることが重要です。床面に比べて壁面は面積が多いので、材料の選択はコストにも大きなインパクトがあります。クロスを中心にするのか、塗装或いは左官にするのかを決めてゆきます。すべての部屋を同じ仕上げるにする必要はありませんが、細かく仕分けしてゆくと混乱するうえに、職人の数が多くなるので、玄関+LDKを少しグレードの高い素材、その他をクロス等と二種類の仕上げで纏めることをお勧めします。その上で、玄関の正面やリビングの背面壁、ダイニングの正面壁等をアクセント壁として色を変えたり、素材を変えることをお勧めします。木材・大理石・タイル・カラーガラスなどは取付け方法も特殊なので、プロのデザイナー・設計者が入っている際には使えますが、一般のリフォーム屋さんにお願いしている場合は色やテクスチャーを変える程度の方が無難かもしれません。メンテナンス性としては、トイレ・洗面やキッチンなどの水廻り、小さなお子様の部屋などは汚れを落としやすいビニールクロスをお勧めします。壁紙の方が張り替えは容易で、塗装の塗替えの方が費用も時間も掛かります。石やタイル・ガラスはほぼノーメンテナンスですが、費用がクロスの8~10倍程掛かるので、あまり多くの面積を張るとコストアップ要因になってしまいます。

 このように書くと壁仕上げ材選びは難しいように感じられますが、壁紙や塗装で色を変えたりすることは、嫌になったら張り替えたり、塗り替えたりは意外と簡単な工事なので、却って思い切った冒険が可能です。壁材は部屋の雰囲気を大きく変えるインパクトがあり、部屋ごとに変えることも可能なので、好みを反映した壁材選びを楽しんで貰えればと思っています。


玄関正面に大谷石を張ることで、普通のマンションとは違うリゾート感を演出した。
凹凸のある張り方を上部からの照明で強調している


正面壁に白い大理石を、右手の壁には天然目の突板と強い素材壁を二面に重ねた珍しい事例


左官塗り壁で柔らかく仕上げたリビングの壁。柔らかさをより演出するためにコーナーをカーブで仕上げ、間接照明で照らしている


框仕上げのパネル壁を塗装した事例。日本では珍しい壁仕上げだが、欧米では大きな壁面に良く使われる手法。


白い塗装仕上げの部屋の奥壁を濃い茶色の塗装で仕上げた。左手の窓の間の壁はフローリング張りで窓枠と一体化させている





建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ)
建築家 各務 謙司

1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/

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