2014年10月16日更新
リフォームの現場監理の重要性
リフォーム・リノベーション工事では設計者のことをデザイナー・プランナーと呼ぶことが多いようです。僕自身も、施主からデザインのアイデアや素材・色選びのセンスを期待されていることは強く感じています。ただ、それでもデザイナーやプランナーと呼ばれることには、抵抗感があります。それは、お客さまには見えにくい部分ではありますが、工事を監理するという作業の重要性を強く感じており、単に紙の上でのデザインだけをしているのではないと考えているからなのです。
お施主さまと打ち合わせをして、ご希望のライフスタイルから間取りやデザインを考えて、採用する素材や器具を選び、実現するために図面化してゆく作業が「設計」に当たります。それに対して、「監理」の作業はもっと見えにくく、その効果が判りにくいプロセスなのかもしれません。契約上は設計意図が施工者に正確に伝わるために、打ち合わせや現場用の図面を作成すること、それに対して施工側が用意した施工図や見本などを検討・承認してゆく作業という位置付けです。
実際のリフォーム工事の流れに沿って説明した方が、よく「監理」の内容が判ってもらえると思います。最初の工事が解体ですが、リフォームでは既存の建物の見えていない部分を図面や経験から想定して計画を練りますが、解体したことで思わぬ問題が露わになることが多々あります。計画していた寸法が取れなかったり、配管経路が違っていて水回りの移設が困難だったりするようなケースです。現場状況を見ながら、細かな設計変更をして問題をクリアし、お施主さまの希望に沿うように臨機応変かつ迅速に対処することが重要です。そのすぐ後には墨出し作業の確認が控えています。真っさらな土地に新しい建物を建てるのと違って、既存建物は床が歪んでいたり、壁同士が直行していなかったりは日常茶飯事です。壁や設備の位置を決めてゆく墨出し作業時に、どこで歪みを解消し、寸法を調整してゆくかで、そのあとの工事のやりやすさが大きく変わってゆきます。解体と墨出し作業時が一番大きな変更が生じる可能性があるので、現場側に対処方法を伝えながら、施主にはどのような状況で何をどう変化させることで対処したのか、またそれにかかる追加の費用やスケジュールの変更などを伝えて了承を得る必要があります。
次は、大工が床や壁下地を作ると同時に、床下や壁裏に隠れてしまう設備配管工事へと進みます。これらがきちんと図面通りに作られており、施工業者がミスをしていないかをチェックします。後日の記録として残すために写真を撮り、それらを報告書として纏めて施主に提出することも大切な作業です。性悪説に立つ訳ではありませんが、施工側も設計者に見られていることで、緊張感を持って工事をしてゆくことに繋がっているハズです。建具・枠の作り方や造作家具の取り付けに向けて、現場で大工や家具屋と打ち合わせをすることは、重要でかつ楽しいプロセスです。よく「空間の神さまがディテールに宿る」と言われますが、図面だけではコントロールが難しいのがこのディテールです。詳細図を事前に用意しておいても、それを渡すだけでは現場側はその意図を理解してくれませんし、良かれと思ってまったく違う仕上がりになってしまうことも多々あります。なぜそのような作り方にしたいのかを現地で作る人たちに説明することで、理解が深まり、彼らからのアイデアも加わって良質なディテールが生まれると信じています。
現場では定例会議といって、毎週同じタイミングで工事の関連業者と設計者が集まって打ち合わせをします。これは、各工事の取り合いの調整をするためです。打ち合わせを通じて、施工側と設計側が良い空間を作り上げるという共通目標に向かって、信頼感を築き上げるのに必要なプロセスです。重要なタイミングでは、工事現場で施主を案内することもあります。たとえば、壁のボードを張ってしまう前に、スイッチやコンセントの最終的な位置を確認してもらうことなどです。報告書だけでは伝わらない空間感を見て貰い、職人さんたちがどれだけ頑張ってくれているかを見て貰うことで、工事の大変さと楽しさを体験してもらっています。
これまで経験がしたことがない素材を使ったり、工法を採用する場合は、どのような工事になるのかを現場で勉強できるのは監理の役得です。仕様やサンプルを見るだけでは判らない素材の特徴や、機器の取り付け方を学んで、それ以降の設計につなげてゆくことができるからです。
このような流れを経て、設計・施主の検査を経て竣工引渡しとなりますが、施工と監理が緊張感を持ちながら工事が進んでいれば、当然仕上げのレベルも上がり、途中経過での報告も伝わっているので、施主の満足度も高くなります。
以上のプロセスを見れば、現場を監理できる力量をもっていなければ、デザインはできないことが判って頂けるのではないでしょうか。最近は全体のスケジュールを早めて、費用を落とすために、デザインアドバイスという形で、デザインと材料きめだけをするサービスを始めましたが、現場を見ることが大好きなので、結局ボランティアで監理まで請け負ってしまっています(笑)。
定期的に施主に提出している工事報告書。どのような作業が行われており、
途中の問題点が何かを判りやすい形で纏めたもの。このためにも現場での写真撮影は重要
解体後の墨出し時の様子。解体の際に露わになった問題を解決しつつ、
建物の歪みや既存の窓やPSとの取り合いを調整する大切な作業
工事が進んだ段階では床下に隠れてしまう設備配管の状況確認。
図面通りにできないこともあるので、現場側と相談しながらの臨機応変な対応が必要
施主に現場に足を運んでもらい、工事状況を確認してもらうことも。
リビングと子供部屋の間に
建てる壁の大きさを実感してもらうために、
現場にカーテンを吊るして見て貰った様子
多様な施工業者が集まって相談中の現場の定例打ち合わせ。
設備や大工、家具職人がそれぞれの意見を言いながら、絡んでくる取り合い工事を調整してゆく
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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