2階、スキップフロアのダイニングキッチンでの大塚夫妻。南側窓の外にはブラジル流に生い茂った蔦が、近隣からの視線や夏の日差しを遮る。
建てて8年目の大塚邸は、南側のパーゴラに蔦が生い茂り、残暑の日照りの下ワイルドな顔を見せていた。
「前は蔦が伸びたら刈り込んで、もっとすっきりさせてたんですが。この夏、(舞台美術を手掛けている)新宿梁山泊の公演でブラジルに行って、野生の植物が強い生命力で息づいているのを見たら、ウチの蔦もあるがままでいいんじゃないかと」(大塚さん)。
あるがまま、素の状態。大塚邸もそう表現できる。家を支える構造体が丸見えで、収納棚もほとんどオープン。家の中央にレイアウトされた階段の辺りに立ってぐるりと視線を回せばほぼ全体が見渡せる、縦につながるワンルーム的空間が大塚邸だ。
自邸を簡素で半屋外にいるような住まいとしてつくったのは、上棟式の状態の気持ちよさを毎日味わえる家ができないか、自分の家で試してみたいという動機からだった。
上棟式のイベントを経験された方ならご理解いただけるだろう。棟上げしたお祝いと工
事の無事を祈願し、柱と梁や床が架かっただけの野外能舞台みたいな「家の骨格」を使って、集まったお客さんに餅を投げたり、簡単な宴会をしたりする。敷かれたゴザの上に座って仮設テーブルに出されたつまみやお酒をいただきながら視線を上げれば、壁の張られていない柱の隙間から風が抜け、青空が見える。
この気持ちよさを日常でも体感できる家として、大塚邸はつくられた。
「建ててよかったです。裸のような家だから、住む人間もありのままでいられる。ちゃんとセッティングされた家でないので、かしこまらなくてもいいというか」(大塚さん)。
また、建築家として自邸をつくったことにはこんな意味もあった。
「一般の人はこういう空間を体感できる機会が少ないですよね。だから建築家としてその体験を提供したいと。なるべく多くの人に実際に見てもらうための家を建てたという部分もあります。自分がどんな家に住みたいかわからない人でもここに来て、ああこのぐらいの広さで十分なんだとか、こういう住み方もあるんだとか、感じてくれたらいい」、と大塚さん。
さらには、「自分と妻のために終の棲家を建てたいという思いよりも、家を建てるということが社会にどう影響するかを意識した」とも。古くなってきたら壊して建て直すしかない建売住宅のような家でなく、古くなっても誰かが住み継ぎたい、ストックとなる家。そんな建物を意図している。
建築家として自邸に社会性を持たせた大塚さん。当ウェブマガで将来、「建築家自邸ツアー」を実現させた際には喜んで公開に協力してくれるという。そんなイベントも構想中なので、皆さんもいつか大塚邸を体感できることを楽しみにしていていただきたい。
- 大塚 聡さん プロフィール
- 1956年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院建築史研究室修士課程修了。旭化成工業等を経て1990年大塚聡アトリエ一級建築士事務所設立。
大塚聡アトリエ 東京都杉並区阿佐谷南3-2-31-201 ・:03-3391-3680
http://homepage3.nifty.com/soa/
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