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ホーム&ライフスタイル トレンドレポート
[第5回]
ニホンの家に住みたい
取材・文 田中やすみ

産直有機野菜のような国産材と職人技術で建てる

 産地まで指定した良質な国産材による家づくりで知られるのが、東北、関東で展開するハウスビルダーの四季工房。日本の木をもっと使うべきとの考えを持つ同社では、昔ながらの知恵と技を活かした家づくりのシステムを独自に構築しています。

 たとえば自然の理に適う優れた方法と知られながら、効率重視の声に押され廃れてしまった「適期伐採(木の成長活動が緩やかになる冬期3ヶ月に限った伐採)」や「天然乾燥(伐採した木材を桟積みし、約1年かけて自然にゆっくりと乾燥させる)」などを採用。今では大変贅沢な方法ですが、山の買い付けから製材までの全過程を信頼のおける木材生産業者に一括依頼してコストを抑えつつ、防虫剤や防カビ剤などの化学薬品を使わない、産直の有機野菜のように健康で安全な木材として確保しています。

 これらの木材は集成材に加工することなく、徹底して無垢のまま使用するのが四季工房のポリシー。ただし、無垢材には集成材に比べて1本1本のクセがでやすいという側面があります。そこで同社では、柱や梁に使用する杉、松は乾燥した後に再度仕上げ製材する「修正挽き」を実施。さらに木の性質を熟知した大工による「手刻み」を全ての家で行い、国産無垢材を活かした丈夫な家づくりを行っています。

 熟練の職人技は他の工程にも取り入れられ、引き戸やドア、窓などの建具を国産木材でつくったり、壁もビニールクロスではなく左官による天然素材の塗り壁にするなど、昔ながらの丁寧な家づくりを多方面で実践しています。品質の高い国産材と伝統の職人技によって生まれる家は住むほどに味わいが増し、手を入れながら長く大切に住み継ぎたくなるもの。こうした住まい手の変化も、四季工房の家は促してくれるようです。

呼吸をする無垢の木の家を、自然エネルギーを利用する「エアパス工法」が支える。室内は清涼な森にいるかのような心地よさ


取材協力:株式会社 四季工房 http://www.sikikobo.co.jp/

初めて見るのに懐かしい、日本人のDNAに訴える家

国産材を現しにした長く住み継ぐことのできる家は、政府の「超長期住宅先導的モデル事業」にも採択されている


取材協力:MISAWA・international株式会社 http://www.m-int.jp/

 大きく流れる屋根、張り出した軒、どっしり構える柱や梁。昔どこかで見たような不思議な既視感を覚えるのが、MISAWA internationalの住宅ブランド「HABITA」の家です。HABITAとは、住まいを単なる器や生活の装置と考えるのではなく、住む人や地域の文化や歴史、さらに環境までも含めた、住み続けるための居住環境と考える同社の思想。200年住宅の名のもと、いつまでも色褪せることなく住み継がれる超長期の家づくりを複数のシリーズで展開しています。

 HABITAの家づくりの特徴は、日本の民家に通じるエッセンスを随所に取り入れていることです。代表的なものが「大断面で木を大きく使い、『現し(むき出しのこと)』にする」。梁や柱などの構造体に五寸(150mm)角の太い国産材を使い、内外装でそのまま見えるようにしたシンプルな仕上げには、木の呼吸を妨げず長持ちさせる効果や、構造が目に見える安心感だけでなく、空間デザインとしての美しさがあります。こうした設計の基本となるのが、日本の寺社や古民家に伝わる設計手法である「間面(けんめん)のつくり」。間面とは柱と梁を格子状に規則的に配置した構造体の組み方で、デザインと堅固な躯体設計を融合する上で欠かせないものとなっています。

 雨の多い日本の気候に合わせた勾配屋根と深い軒、風景に溶け込むナチュラルな外観、現しにした木が五感に直接働きかける心地よさ…自然であることをよしとし、過度な作為や装飾を排す”日本人古来の住宅観”が色濃く反映されているHABITA。展示場で、民家を知らない高校生が「懐かしい」と呟いたという背景には、長年育んできた日本の家文化のDNAが深く息づいているのかもしれません。

古民家ならではの時間、自然に寄り添う暮らしを愉しむ

障子で仕切った広間と土間を持つ典型的な民家が、見事な現代デザインとして蘇った。古い梁や建具に北欧モダンの照明がよく似合う


取材協力:株式会社 里山建築研究所 http://www6.ocn.ne.jp/~s-archi/

 茅葺き屋根の古民家や土蔵づくりの商家をリフォームし、セカンドハウスやリタイア後の住まいに…そんな暮らし方に憧れを持つ人が増えています。百年~数百年の歴史を刻んできた古民家には、現代ではほとんど入手不可能な立派な太い材や、昔の職人の確かな技と知恵が凝縮されていますが、一方で、経年による傷みや耐震性、断熱性の問題など、現代人が住む上で克服しなければならない課題も数多く持ち合わせています。そのような時に心強いアドバイザーとなるのが、自然に根ざした里山の暮らし方や生活作法を研究しながら古民家再生のサポートで知られる、つくば市の里山建築研究所。同研究所は、古民家や里山の研究で知られる筑波大学の安藤邦廣教授が設立。拠点とする茨城県筑波山周辺を中心とした古民家の再生や、杉材を使った板倉造りの住まいの設計を行っています。

 古民家再生において、最初に行う作業は家の診断。長年使用されていないケースがほとんどなので、たいていは「敷居は擦り減り、土台や根太が傷んで建具はおろか家そのものが傾き、畳は抜ける寸前の傷んだ家」。注意深く調査した上で改修可能かどうかを判断し、家の状態によって柱を持ち上げて傷んだ根元を切って基礎と土台を立ち上げたり、歪みをワイヤーで矯正したり、大掛かりな作業へと続きます。味わい深い障子やガラス戸などの木製建具は、古いものを修理したり転用するなどして、なるべく活かすように。同時に屋根は厚い杉板に重ねて瓦を葺き、外壁の表裏には杉板を張り、床も杉板を二重張りにするなどして、現代の生活に必要とされる断熱性と耐震性を持たせていきます。

 「改修工事で大切なのはメリハリです」と同研究所。例えば、軸組みを頑強に補強することに予算を割き、強度に影響のない天井や縁側は住みながら手を入れていく…といった緩急のつけ方も、見方を変えれば住み始めてからの愉しみにつながります。自然と寄り添い、身の回りにあるもので工夫しながら手仕事で暮らしを紡いでいく。そんな贅沢な時間の使い方こそ、古民家暮らしの極意ではないでしょうか。

■取材ノートより
 理屈抜きで心の中から湧き上がる不思議な共感を覚えた取材でした。庭の緑を眺め、月を見上げ、風を感じる。千利休のわび茶に代表される、自然を愛で、目に見えないものを感じ取り、無駄を省いた中に豊かさを味わう日本人ならではの美意識は、これからの住まいにもっと取り入れられるべきだと確信します。住宅の長寿命化が進む現代こそ、長い年月を経てこれまで培われてきた、日本の住まいの知恵に真摯に学ぶべきなのだと実感しました。

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