モデルや女優業だけでなく、NHK教育テレビ「趣味の園芸ビギナーズ」でナビゲーターも務めている吉武遥さん。家と花に格別の思い入れを持つご両親のもとで、子どもの頃から自分にとって好きなもの、心地いい空間を見極める目を養っていたようです。美術大学を卒業し趣味が写真という吉武さんの、感性豊かな住まい観を伺いました。
家を見るのが大好きな両親に、子どもの頃はあちこち連れて行かれました
—-「趣味の園芸ビギナーズ」では、草花を使ったご自身の作品なども発表していますが、自然からお花に親しんでいたのですか?
吉武「祖母や母がとてもロマンティックな人で、小さな頃からいつも家の中のいろんな場所にお花が飾ってあるような生活をしていました。小学校へ行く時も、よく教室に飾るお花を持って持たされて。私も家にいる時は、押し花を作ったり、お花でブレスレットなどを作って遊んでいました」
—-ご実家は確か大阪ですね。一軒家だったのですか。
吉武「はい。少し変わった家で、家の片側半分が円形をしていて、吹き抜けの螺旋階段があるんです(左下写真参照)。両親が日本中の有名な家を見学するのが趣味で、長崎の異人館を見たいなどと言って、子どもの頃からよく一緒に連れていかれました。小さい頃は少し退屈だったので、この家が建った時、やっと家めぐり旅行から解放されるかなとホッとしたのを覚えています(笑)」
—-吹き抜けの螺旋階段なんて、美術館のようなご実家ですね。どなたか建築家に依頼して建てられたんですか。
吉武「いえ、両親が考えたようです。細かいところもいろいろと凝っていて、すりガラスにお花にモチーフが彫られていたり、部屋のドアの上をアーチ型の窓にしてみたり。お部屋の壁紙もとても繊細な色のグラデーションや植物の模様が薄く入っていて(写真)、部屋ごとに全部違うんです。この前、知り合いの方に着物を作っていただいたんですが、偶然ですけど実家の壁紙の模様とそっくりで驚きました(笑)」
クラシカルでロマンティックな雰囲気が好き。ソファは3カ月我慢して手に入れたもの
—-お仕事を始めてからは東京での暮らしだと思いますが、現在はどんな部屋にお住まいなんですか。
吉武「部屋の半分が窓ガラスで、お日様がさんさんと入ってくる、とても明るいお部屋です。ベランダの広さがお部屋と同じ位あって、とても眺めがいいんですよ。できればこのベランダを温室みたいにして、お花の中で、人を読んで好きな本の朗読会をしたり⋯そんな暮らしができたらいいなと思ったりするんですけど、実際はちょっと難しいですよね」
—-そんな場所が家にあったら気持ちよさそうですね。インテリアにも何かこだわりがあるんでしょうか。
吉武「明るいお部屋に真っ白い家具を置きたいと思って少しずつ揃えました。クラシカルでロマンティックな雰囲気が好きなので、気に入ったソファが見つかるまで妥協したくなくて、3ヶ月ソファなしで我慢したり。家具だけでなく食器やちょっとした飾りなども、部屋の雰囲気に合うものを集めています。お花も大好きなので、花冠にしたり少しアレンジして飾っています」
—-お話を伺っていると、とてもライフスタイルにポリシーをお持ちのように感じます。例えば、お気に入りのショップなどはあるんですか?
吉武「いえ、特定のお店で揃えることはあまりしないです。インテリアを考える時、見本にしているのは、絵や映画、クラシックホテル、教会とかが多いです。ラリック※とかの装飾的な工芸品やオリエンタルな雰囲気の物も大好きで、古道具屋さんにもよく行ったりします」
光がたくさん入ってとても気持ちが良い最上階まで続く螺旋階段。(大阪の実家)
内壁の紋様の一部。自然な色合いや植物の紋様で統一されています。(大阪の実家)
フラワーアーティストの大谷幸生さんから頂いた鮮やかなレイを纏ってごきげんな鹿さん。
先日購入した海の中のような装飾の鉢。
(以上写真4点とキャプション 吉武遥)
撮影の仕事で全国の新旧名建築を見る機会も多い。「とっとり花回廊の前面ガラス張りの回廊はすごくきれいでした」
お気に入りの物たち。アンティークなテイストのもの、花をモチーフにした小物が好きで、手作りすることもよくあるそう
—-ホテルでいうと、箱根の富士屋ホテルや日光の金谷ホテルみたいな雰囲気でしょうか。
吉武「はい、富士屋ホテルは”花御殿”なんて名前からもう素敵ですよね。お散歩にも出かけます。金谷ホテルは格(ごう)天井や欄干、お花の咲く柱などの細工が美しくて、当時の日本の宮大工さんを想ってほれぼれします。雲仙観光ホテルも大好きです。このホテルは、ドアノブの位置が妙に高いのがポイントで⋯。クラシックホテルには、日本人の大マジメがちょっとズレて現れていたりするところも、なんともいえず美しくて大好きなんです」
—-なるほど。少し”家の時間”から離れてしまいましたが(笑)、吉武さんの好みのツボがよくわかったような気がします。
※ ルネ・ラリック フランスのガラス工芸作家(1860−1945)。アール・ヌーヴォーからアール・デコへと芸術の流行が変わる中で、両時代を代表する存在として活躍した。
明るいところ、囲まれたところ。家には両方ほしい
—-写真を撮るのが趣味だとお聞きしましたが、どんなものを撮るのがお好きなんですか?
吉武「光がいっぱいあったり、なんていうか⋯神々しい感じがするものが好きでよく撮っています。あと、はかない雰囲気のものが好きですね。人の産毛とかあぶく、ウサギの耳の血管が透けているところとか」
—-さすが美術大学出身⋯視点がユニークですね。撮った写真を部屋に飾ったりするとか。
吉武「いえ、飾るというよりも、人に贈ることが多いです。その代わりというか、古くてかわいいデザインの本が好きで、よくお友達からもらって部屋に置いています。自分で古本屋さんとかで手に入れた本もたくさんあって、寝る前に読んだりします。カラー写真の技術がまだ発達していない頃に作られた、プリントの上に人が色を付けて仕上げている草花図鑑は、本物のようなニセ物のような不思議な写真の色合いが気に入っています」
—-クラシカルで味わい深い感じのものに囲まれた、吉武さんのフワッとした雰囲気に合う暮らしぶりが想像できます。建築でいうとモダンとかシャープといったテイストの対極にある、少しデコラティブで有機的なテイストが似合いそうですね。将来、こんな家で暮らしたいという理想はありますか?
吉武「包まれたような感じのところが居心地よく感じるので、そういう家に住めたらいいなぁと思っています。究極は花の蕾とか大木に自然にできた穴みたいなイメージなんですが⋯」
—-おもしろい例えですね(笑)。今住んでいる太陽燦々のお部屋や温室のイメージとは、また全然違ったイメージですね。
吉武「そうですね(笑)。明るいところと囲まれているところ、両方ほしいのかもしれません。それと植物の息吹を肌で感じられることは大切ですね。先日、撮影で鎌倉の吉屋信子記念館※に行ってきたんですが、とても素敵だなぁと思ったんです。尼さんが住んでいそうな純和風建築で、裏庭がすごく広くて。今のお部屋とは全然雰囲気が違うんですけど、きっと、どこか懐かしい感じで、時間が経つとますます良くなるような家が好きなんだと思います」
※吉屋信子記念館 大正から昭和にかけて活躍した女流作家、吉屋信子が晩年居住していた家。近代数寄屋建築の第一人者であった吉田五十八氏の設計。現在は鎌倉市に寄贈され、 記念館として一般公開されている。
- 吉武遥さん プロフィール
- 1984年、大阪府生まれ。芸術大学で写真を学ぶ。ファッション誌のモデル、舞台やテレ ビドラマでも活躍。現在NHK教育テレビ「趣味の園芸ビギナーズ」にナビゲーターとして 出演中。特技は写真、乗馬。趣味は映画鑑賞、ガーデニング、美術館めぐり。
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