2010年03月17日更新
パリでアパルトマンを探そう!
こんにちは、パリ在住六年目にして、カオリさん同様にパリにはあまり詳しくもないアリオですが、これから、どうぞお付き合いください。
さて、「パリ」と聞いて、誰もが思い浮かべるのは、絵のように美しい町並みでしょう。それは、本当に綺麗です。ただし歩いているだけなら。内側から見るパリは、実は全く違う風景です。というわけで今回のテーマは、ずばり「パリのアパルトマン」。
この街に住むにあたり、誰もが最初に体験するのが家探し。私も五年前に引っ越してきた当初は、美しいフローリングに、大きなフランス窓、天井の高い部屋を思い描き、わくわくしていたものです。思えば、あの頃は本当に無知でした。
右も左も分からぬ私は、まずは街で目に付いた不動産屋に入ってみることにしました。日本なら不動産屋のウインドーにはたくさんの物件情報が張ってありますが、こちらでは、広告はなぜか売り物件ばかり。「?」と思いつつ、中に入って「部屋を借りたいのですが」と言うと、女性はチラリと私を見て「今は貸し物件は3件しか扱ってないけど、それでよければ」という耳を疑うような返答。そう、パリは空き物件が極端に少ない街だったのです。
確かに考えてみれば、パリのこの美しい町並みを保持する努力の裏側には、「新しい建物をなるべく建てない」という決まりがあるわけです。しかしながら、地球の人口と同様にパリの住民の数も爆発的に増え続けているわけで、その当然の帰結がこの超住宅難。ここから、私のロングジャーニーは始まったのでした。
まずは、何も分からないなりに、希望価格は1000ユーロ前後、エリアはパリの西側と決めてみました。そして、不動産屋にアポをとり、10軒ほどのアパートを見学しました。そこで得た感想は「同じ価格帯で同じエリアなのに、なぜこんなにバラエティーがあるの?」ということ。10軒は何もかもバラバラ。大きさも25平米~50平米まで。フロアも2階も21階もあり。フローリングもテラコッタタイルもカーペットも。しかし、全てに共通して言えるのは、「何かどこかが変だ」ということでした。
その前に、まず知っておくべきこととして、パリには大まかには旧建築と新建築という二種類の建物があるということです。旧建築はみんなが思い浮かべるような古くて”ステキな”建物です。一方の新建築は戦後に建てられた新しい建物(といっても30年くらい経っている)のこと。 私はアンティークの家具や使い込まれた道具が大好きなので、迷わず旧建築を希望していました。 ところが・・・
旧建築の部屋というのは、数百年間の風雨に耐えているだけあり、建物全体が歪んでます。そして、外から見ると愛らしい窓は、内側から見るとけっこう小さく、部屋の中は薄暗いことが多いようです。さらに上下水道が存在しない時代の建物さえも多いらしく、その結果、トイレやキッチンがとってつけたように奇妙な場所にあるのです。キッチンを通らないとトイレにはたどりつけないとか、キッチンがミニチュアサイズという物件もありました。6階、7階でもエレベーターはないのも当たり前。こりゃ困ったと思い、ためしに新建築の物件も見てみることにしました。
それでは、新建築がマトモなのか、と言われると、何ともいえません。確かに台所もしっかりしているし、窓も多くてなんとなくいいのですが、新建築なりの問題がありました。それは「悪趣味」の一言。どうしてこんな内装にしちゃうのか不思議です。私が見た部屋など、部屋の全面が鏡張りの上に安物シャンデリアがぶら下がっているのに、床はオフィスのようなグレーのタイルカーペット。「こんな気持ち悪い部屋に住めない」と思い、下見は10秒で終了。もう一つのパターンは異様に殺風景。フランスを感じさせる魅力的なパーツは何もなく、「なにが悲しくてパリまで来て、こんな安っぽいモーテルみたいな所に住まなければならないの」という気分にさせられました。
最後に悟ったことは、全ての条件を完璧に満たしてくれる物件などないということでした。あったとしても、家賃がべらぼうに高かったり、大家さんの「保証人のいない外国人とは契約できない」というツルの一声でおじゃんになったりします。そうして、また不動産屋をめぐり、新聞広告を見て、アポを取りというのが、繰り返されていくわけです。つまりパリのアパート探しは行動力、分析力、決断力そして運という人間の能力がことごとく試されるといえるでしょう。しかし、全ての困難を乗り越え契約書にサインしたときの満足感、達成感たるやすごいものがありました。「私はやり遂げた!」と祝杯を挙げたい気分です。
そうやって見つけた私の部屋を、今回はお見せしてしまいましょう。パリジャンでさえ、皆「あらゆる意味でパリっぽい!」と言ってくれるお部屋です。
場所はサンジェルマンデプレという中心地。建物は、押しも押されぬ旧建築で、オーナーによれば築200年。5階ですが、エレベーターはなく、強制的に運動ができるのが私向き。部屋に入ると、明らかに天井が大胆に歪んでいるし、窓の建付けは悪く、冬は隙間風がびゅうびゅう。ちなみに、クロゼットなどの収納のあんまりありません。キッチンは、部屋のバランスから見るとバカでかく、この家一番の存在感です。
じゃあ、この部屋が嫌なのかと問われると、それが住めば住むほど好きになってしまったのだから、不思議です。人間はどんな環境にも慣れるもので、今はポジティブな面だけを見てハッピーな気持ちでいられるようになりました。良い面って何ですかと問われれば、そうですね、窓がたくさんあり、二面採光なので一日中明るいです。そして、古い無垢材のフローリングは飴色で美しく、部屋の真ん中に通った梁もこの家のチャームポイント。趣味で収集してきた古家具や絵とも調和しています。窓の外にパリらしい小道が通り、パリらしい地元のカフェが見えるのも気に入っています。「まあ細かいことは気にしない、まあいっか!」という風に考えられるようになった私は、やっぱり頭がパリジャン化してきているのかもしれませんね。
- カオリ・有緒(アリオ) プロフィール
- *カオリ
早いものでパリでの生活、11年目に突入。毎日、セーヌ川左岸にある職場と家の往復のみで、いまだにマレ地区に足を踏み入れたことさえないくらいのパリ音痴。アメリカに暮らす夫と遠距離結婚中。*有緒(アリオ)
ほんの1、2年ほどのつもりが、気づいたら6年目近くにも及ぶパリ生活。日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われながらも、のほほんとした毎日。住んでいたのはサンジェルマンデプレといえば聞こえがいいだけの、築二百年近い古びたアパルトマン。趣味は、友人に料理を作ることと、アンティーク家具や骨董品などのガラクタを買うこと。 最近、東京に拠点を移しましたが、まだパリと行ったり来たりが続きます。最近初の著作となる「パリでメシを食う。 (幻冬舎文庫)」を出版しました。