2010年05月26日更新
我が家にダイニングテーブルがやってくる
こんにちは、アリオです。前回はカオリさんが家にまつわるトラブルを書いてくれたので、今度はもう少し明るい話題を!というわけで、今度は家具の話をしてみようと思います。私の借りているアパートは「家具がついていない物件」です。賃貸物件に家具がないのは日本では当たり前ですが、パリでは見つけるのがむしろ難しい代物なんです。でも、私はあえて「家具なし」にこだわっていました。だって、「家具なし」なら、一枚の皿から、ベッドのスプリングの硬さ、カーペットの柄まで選べるのですから。しかし、逆に言うと何でもかんでも買い揃えないといけないので、海外からぽっと来た人間には面倒でもあるのですが、それも厭わないほど、パリでの家具選びを楽しみにしていたのです。
私は高校生くらいの頃から、アンティークというか、要するに使い古された道具や古びた木製の家具、そしてガラクタ類が大好きで、こつこつと気に入ったものを収集していました。パリに引っ越すに当たって、これらのものをどーんと引越し便で送りつけていたのです。それを、現地で買った家具とコーディネートするんだ、という野望を持っていました。そして、ガイドブックを眺めれば、パリには蚤の市やブロカントといわれる骨董道具屋が一杯!というわけで、古家具の聖地ともいえるこの街で、色々と買うぞと気合がはいっていました。
最初に向かったのは、クリニャンクールというパリ最大の蚤の市です。想像を絶する規模で、数百件以上もずらりと並んだアンティークショップの店先には、家具だけではなく使い古されたランプやキッチン用品、道具箱、装飾品、はたまた楽器や切手なんかも並んでいます。私は胸をときめかせて、次々と手に取り始めました。ところが。ふと値段を見て衝撃を受けました。前世紀からの汚れがこびりついた銅鍋や、鉄サビが浮き歪んだ缶、色あせた西洋人形、動かない掛け時計などが、平気で数千円、数万円という値段なのです。
「うそでしょ、日本より高い!」
雑貨が高いということは、家具に至ってはビックリプライスで、一日が終わるころには、「まったく手が出なかった・・・」と打ちのめされたボクサーのようになって家路についたのでした。そして、翌週はもうIKEAに向かったのだから、アンティーク好きが聞いて呆れちゃいます。
そうやって何とか一通りの家具を揃えて何年も過ぎたころ、ある友人夫婦の家に招かれました。彼らは陶芸家とガラスデザイナーで、シテ・デザールと呼ばれる「芸術家村」のようなところで暮らしています。芸術家村といってもそれぞれの部屋は、白い壁の四角い部屋というシンプルな作りで、あまり愛想はありません。しかし、二人の部屋には私が思い描いていた「古道具のあるパリの部屋」でした。蚤の市で買ったという小物や雑貨がセンス良くあちこちに飾られていました。それだけで、部屋がぐんと温かみを増し、私は思わず「そうそう、そうなんだ!」と頷いていました。「どこで買ったの」と聞いたところ、クリニャンクールではなく、パリ南部の「バンブの蚤の市」や不定期で開催される古道具市をまわっているとのこと。そして、「クリニャンクールは高いからね」と言うではありませんか。私は二度目の衝撃を受けました。そ、そうだったのか。私は自分の根気のなさを恥じ入り、再びリングに上がろうと決めました。風前の灯のような古家具への情熱がぼわっと再燃した瞬間でした。というわけで、次の週末から数年ぶりの蚤の市巡りが再開されました。
まだ寝ている夫を叩き起こし、土曜日の朝っぱらから向かったのは、話題に出たバンブの蚤の市です。確かに、あるわ、あるわ。どうでもいいガラクタも一杯ですが、中には可愛らしい雑貨が埋もれています。それなりにリーズナブルな値段に舞い上がり、私はガラス容器やクリスタルのグラスセットを勢いで購入し、夫に至っては動かないカメラや時計などの真性のガラクタを買いこみ、二人とも上機嫌で帰宅しました。
「ついに何かを買えた!」という事実がさらに情熱の火をさらにヒートアップさせたようで、今度は「絶対に家具が欲しい!」という結論に達するのに時間はかかりませんでした。家具はすでに一通り持っているので、特に必要なものはなく、家に余分なスペースもないのに、そんなことは関係なし!今度はパリに点在する古家具ショップを巡ることにしました。また土曜日の朝に早起きし、一番ショップが多いマレ地区やオベルカンフ近辺へ。
何軒かの店を巡ったあと、ついに、見つけました。いつか欲しいと思っていた(?)古い木のダイニングテーブル!素朴で分厚いウッドの天板とグレーにペイントされた無骨な足に一目ぼれ。フランスの農家などにあるような長い天板がなんともいえません。考えて見たらダイニングテーブルは置く場所がないので買っていなかったのです。値段を聞けば、かなり手ごろ。そして、「ちょっとおまけしてもらえませんか?」と聞いたら、気のいいオーナーが「いいよ!」と快諾してくれるではありませんが。彼の気が変らないうちに、さっさとお金を払い、「車を手配して、後日取りに来ます」と告げ、家に戻りました。
ああ、ダイニングテーブル。私は家に帰ってからも、ニヤニヤと写真を眺め続けました。そして、ハタと気づいたのです。そうだ、椅子を買わないと!どんな椅子があうかな。やっぱりシンプルな木の椅子かな。それとも、ミッドセンチュリーみたいな皮や布張りの椅子も意外と合うかもしれない。そうだ、別のお店で見た北欧テイストの椅子が合うかも・・・。というわけで、私のアンティーク巡りはまだまだ続きそうです。
- カオリ・有緒(アリオ) プロフィール
- *カオリ
早いものでパリでの生活、11年目に突入。毎日、セーヌ川左岸にある職場と家の往復のみで、いまだにマレ地区に足を踏み入れたことさえないくらいのパリ音痴。アメリカに暮らす夫と遠距離結婚中。*有緒(アリオ)
ほんの1、2年ほどのつもりが、気づいたら6年目近くにも及ぶパリ生活。日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われながらも、のほほんとした毎日。住んでいたのはサンジェルマンデプレといえば聞こえがいいだけの、築二百年近い古びたアパルトマン。趣味は、友人に料理を作ることと、アンティーク家具や骨董品などのガラクタを買うこと。 最近、東京に拠点を移しましたが、まだパリと行ったり来たりが続きます。最近初の著作となる「パリでメシを食う。 (幻冬舎文庫)」を出版しました。