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トロントひとかけら

体感輝度はこのくらい(PC設定環境差&個人差あり)

出番なし…

オンタリオ湖に浮かぶヨット群

提供/Lifesaving Society

2011年08月24日更新

はじめての夏

今年の夏は暑い。
今年の夏も暑い。

そんなメールが日本からよく届くこの頃、トロントも先日は42℃の暑さを記録した。この日は異様な熱風が吹き荒れたものの、翌日にはストンと涼しくなって落ち着き、一件落着。今年の夏エアコンをつけたのは、今のところこの一日だけだ。
暑いだけでなく湿度が襲いかかる日本の暴力的な酷暑と比べたら、ほどよく乾燥して汗もそれほどかかないトロントの夏には文句のモの字も出ないというもの。それにカナダはサマータイムが導入されているので、この季節は夜9時まで昼間の明るさが続く。けれどそんな時間を待たずとも5時前になればパブのテラスはビール片手に仲間と一杯やる人たちでぎっしりになって、仕事どころじゃない雰囲気で溢れかえる。
週末になるとジャズフェスティバルやカリビアンパレードなどのイベントで街はさらに盛り上がり、トロントニアン達はカラフルなサマードレスや水着で街や湖畔を闊歩して短い夏を思いっきり楽しんでいる。
それは氷点下の気温の中で誰もがモノトーンの服を着ぶくれていた数ヶ月前には想像もできなかった光景で、私のトロントに対するイメージもぐっと明るくなった。

ただし、ないものねだりで日本の夏がうらやましくなることがひとつ。
それは日傘をさせること。
街はずれにある中華街ではたまーに見かけるけれど、ダウンタウンで日傘をさしている人は皆無。そもそも小雨でも傘をささない人が多いのに、晴れの日に傘をさしたりしたらさぞやギョッとされるだろう、と想像できる。
しかし日傘もなかなかあなどれないもので、帽子より断然大きなパーソナル日陰ができるし、その分日焼け止めクリームでピエロみたいに白塗りになる必要もないし、突然の夕立ちにも活躍。少々クラシックではあるけれど心強い秀逸アイテムだと思う。

どうしてそんなに日射しが気になるかというと、それは美白を死守するためではなくカナダで最も多いがんは皮膚がんだから。そしてその主な原因は無防備な日焼けだから。
夏のトロントは極端に日差しが強く、無防備に肌を出すとレーザー光線で焼かれているような状態になってあきらかに危ないのだ。カナダ保健省やがん研究機関もこぞって日光の危険性を訴え、口酸っぱく日焼け予防ガイドラインを唱える昨今、この強烈なサンビームにさらされるのは最小限におさえたい。
そんなこんなで…

もういいや!なんと思われようと日傘さしちゃおう!
とある日最寄り駅まで強行でさして行ったら、すかさず通りすがりに
「Raining? 雨降ってんの?」
と怪訝そうにつぶやかれた。やはり。
まあ馬の耳に念仏を決め込めばいいだけの話だけど、私が躊躇するのは似たような経験があったから。
それは「パリでマスク」。

フランスに住んでいた時、風邪を引いていた私は町のマスク人口が皆無のパリでマスクをつけて出かけたところ
道端では見知らぬ若者達にマスクをビヨーンと引っ張られて笑われ、
店に入れば強盗と間違われて「何が欲しいんだ!?」と怒鳴られ……

さすがに愉快ではなく、以来パリでは二度とマスクをつけることはなかった。
そしてその後フランス人の友人に
「テレビで見たけれど、日本では皆マスクをつけているの?(注:花粉症の季節)
毒ガスの中にいるみたいでこわい!」
と言われて、なるほど普段マスクをつける習慣がないとそう感じるのかと納得した。

ちっちゃなマスクがそんなに波紋を巻き起こすのなら、太陽の下で傘なんて凶器に見えるんだろうか。日本では普通に持ち歩いていたけれど、トロントで日傘を堂々とさすのはちょっぴりスリリングかもしれない。

スリリングといえば街角で出会ったこの広告。

Cold water is deadlier than you think (冷たい水は想像以上に命取り)

というコピーと溺れる人…水の中の手…
なんだろうこのホラーなポスター、と気になったので家に戻ってURLをチェックしてみると、夏に多発する水難事故予防キャンペーンだった。
カナダでは毎年何百人もの人がボートから落ちるなど水難事故で亡くなっていて、それは泳ぎが上手いか浅瀬か深瀬かよりも、冷水による低体温が致命的となるケースがほとんどだそう。
この国には北米五大湖のスペリオル湖・ミシガン湖・オンタリオ湖・エリー湖・ヒューロン湖に代表される数えきれないほどの湖があって、3キロ平方メートル以上の湖だけでもその数3万1752個。さらに広大なハドソン湾やセントローレンス川もあり、夏はヨットにボートにカヤック、冬はスケートを楽しむ人達が押し寄せるのだから水の事故が多いのもよくわかる。特に夏場はつい無防備になって悲劇につながってしまうのだろう。

やっぱりここは北国。水の中は一年中冷たい。
そしてどんなに日差しが強かろうととことん楽しもうとするのは、みんな夏の短さを知っているからなのだ。

ライター Kyuena キュエナ

Kyuena キュエナプロフィール
フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。

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