2011年10月19日更新
東のギリシャ人街
「ビッグ・ファット・ウェディング」という映画があった。低予算のインディペンデント作品でありながら口コミで人気が高まって大ヒットした作品だ(日本では2003年の夏に公開)。シカゴで家族が経営するレストランで働くギリシャ系アメリカ人女性が「ギリシャ人男性と結婚してギリシャ人の赤ちゃんを産みなさい!」と押しつける両親に翻弄されつつもギリシャ系でない男性と恋に落ちたら一族あげての大騒動に…という、ギリシャ人の家庭事情がおもしろおかしくよくわかる作品だった。
トロントでは毎年9月にトロント国際映画祭が開催されて「北のハリウッド」と呼ばれるほど映画ロケも多いのだが、この「ビッグ・ファット・ウェディング」が撮影されたのもシカゴとトロントのギリシャ人街。トロントで「グリークタウン」「ダンフォース」などと呼ばれるそのエリアはダウンタウンの東にある。
1970年代から1980年代初頭には北米最大のギリシャ人街となったこの地は、ギリシャ国外でもっともギリシャ人人口密度が高い地区のひとつだ。
広いテラス席のあるギリシャレストランやバーが大通りに並び、パティオや噴水のまわりで人々が憩い、カフェではおじさん達のギリシャ語が響き、夜遅くまで大勢の人が食べたり飲んだり…と他にはない明るさと濃厚さが漂って、北国カナダに地中海の空気が流れ込んだような独特の風情を感じる地区なのだ。
毎年8月に開催されるピラロスというお祭りが有名で、この日はステージで民族舞踊のパフォーマンスがあったり移動遊園地が来たりしてものすごい盛り上がりよう。もちろん食物のスタンドやレストランは長蛇の列。歯が痛くなるほど大甘なバクラヴァやルクマデスなどのお菓子を食べ歩いた後は、レストランへ。フェタチーズがたっぷりかかったポテトやサラダをつまみながらワインで乾杯、などとやるとこれってトロント流正しい夏の過ごし方かもと調子よく思えてきて幸せになる。
ただし、ギリシャ人経営の古い店は次々と消えているらしい。その陰には地代が上がりすぎたことや、ギリシャ系の若者が親の仕事を受け継ぎたがらないなどの理由がある。
様々なエスニックタウンの存在がモザイク都市トロントの魅力なのだから、願わくばタコが自分の足を食べるようなことはしないでほしい。また生えてくるのは難しいから。
- Kyuena キュエナプロフィール
- フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。