一足お先にサンクスギビング

最近気になったニュースは、トロント郊外の動物園〈Toronto Zoo〉でケープペンギンのペドロとバディの仲睦まじいゲイカップルが引き裂かれることになったという話。ケープペンギンは絶滅危惧種に指定されていて、彼らも子作りのためにわざわざアメリカから呼び寄せたのだからお務めはしてもらわないと困る、というのが動物園側の理屈だ。そして無事子作りに成功した暁には2羽を再会させてあげるのだとか…そんなこと当のペンギン達は知るすべもないだろうけれど。

はたして彼らは
メスペンギンとのお務めを果たせるのだろうか？
無理やり引き裂かれたトラウマの影響は？
再会時に以前と同じように愛し合えるのか？

など懸念だらけで、ツーショット写真の微笑ましさが胸に突き刺さる。
そしてこのニュースが流れて以来「ペドロとバディを引き裂かないで」という署名運動が盛り上がりを見せている。トロントは北米で初めて同性婚が合法化されたレインボータウンだからこそ、ペンギンカップルに対する仕打ちに抗議する人達がひきもきらないようで。

ところで秋の訪れ＋鳥といえば、なんといってもサンクスギビングデー〈感謝祭〉。
この日は家族皆でテーブルを囲んでターキー(七面鳥)の丸焼きを食べる慣わしから、別名〈ターキーデイ〉と呼ばれる国民の祝日だ。アメリカでは毎年11月の第4木曜日だが、北国カナダでは10月の第2月曜日に早々と祝ってしまう。カナダ人はこの連休中に里帰りして家族で食卓を囲むが、そこまで根を下ろしていないニューカマー達も声をかけあってホームパーティーを開催する。私達は2軒のお宅にお邪魔したけれど、両家とも外国人の両親がトロントに移住して子供たちが誕生した移民第一世代ファミリーとその仲間だった。ただしカナダ、フランス、イタリア、日本とあちこちの料理が並び様々な言語が飛び交うチャンプルーなパーティーでも、主役はやっぱりローストターキー。明け方5時から準備を始めたという巨大なターキーの皮はまんべんなく飴色に焼けていて、ナイフを入れると中から真っ白いお肉とお腹に入れた詰め物が現れる。それをそれぞれの皿に切り分け、濃厚なグレービーソースをかけてホースラディッシュを添えて－いただきます。

カナダはふだん積極的にちゃんぽん料理を楽しんでいるというか、世界中から集まってきた料理を自由にフュージョンしているところが面白いと思うのだが、サンクスギビングデーに皆が集まったらやっぱりターキーがでん、とテーブルを占領しているべき。そしてこういう伝統的な食事も落ち着いた秋の日にはよく合うんだな、と実感する一日なのだった。

そしてターキーを食べ終わった後には、〈ウィッシュボーン〉というおなじみのお楽しみが登場する。ウィッシュボーンとは叉骨と呼ばれる鳥の胸のY字型の骨の名前で、〈サンクスギビングボーン〉とも呼ばれる。
お肉を食べ終わったターキーのウィッシュボーンに願いをかけながらきれいにY字を裂ければ願いが叶うんだよと盛り上がった私達、この日は写真の彼女に貴重な骨をプレゼント。真剣に願いを込めて両手でバキッと豪快に引き裂くその姿を見守りながら、最後のお役目を果たしたターキーを前に私達は大団円を迎えたのだった。

ところがあとで調べてみると、実はウィッシュボーンは骨の片方ずつを二人で引っ張り合って、骨が大きく折れた人の願いが叶うというもの…そういえばあの日は途中でカナダ人が帰ってしまって、残った皆の「なんとなく」の解釈で事が進んだのだっけ(お酒も入っていたし)。
だけどバナナ入りのお寿司が堂々とレストランで出てくるトロントなら、そんなサンクスギビングボーンもありなんじゃないかと思えるこの頃。バナナの香るお寿司がおいしく思えれば、きっと願いも叶うだろう。