2012年02月01日更新
お引越し #1
日本から移住して以来住んでいる今のコンドミニアムに住んで10ヶ月。入れ違いで帰国される先輩一家が住んでいたところをそのまま引き継ぐことができ、トロントにまったく土地勘のない私達には本当にありがたい話だった。けれどじっくり選んだわけではないのでどうも自分達の生活にぴったりの条件というわけにはいかず、あちこちの芝生が青く見えてしまいがちでもあった。目の前のオンタリオ湖から吹きつけるブリザードには慣れたけれど、もっと街中の分相応な家に住めればいいのになぁと思った私達は早い時期からあれこれ情報収集し続けていたのである。ただしわかっていたのは、引っ越せるのは早くて入居から1年後だということ。一般的にトロントで住居を借りる場合は最初の1年が年契約になるので、このコンドも入居時に1年分の小切手を一気に切ってしまっていた。契約や交渉によってはサブレット(又貸し)やペナルティ付の契約短縮もできる場合もあるけれど、いろいろ面倒が起こりそうだったので引っ越すならばきっちり1年住んで契約更新時期にしようと決めていた。
そこで期待をかけていたのは、トロント大学のファミリーハウジング。これはトロント大学に通う学生や研究者とその家族を対象とした住居で、大学の借り上げたダウンタウンのアパートに入居できるというシステム。相場よりぐっとお得な賃貸料で部屋も広く、通学・通勤先の大学が至近距離なのでなかなか人気が高い。
私達は昨年の5月頃に申し込んで「空き部屋が出るよ」と連絡をもらったのが11月だった。長い夏休み前にメールで申し込んだきりで「どうせ連絡なんてないのでは?」という前提で待っていたので、これでも意外と早かった感あり。
その空き部屋は建物3階にある2DKのファミリー向け物件で、建物の外観は古びているけれど室内はしっかりリノベーションされていて十分明るい雰囲気。聞けば入居時期は今のコンドの契約更新時にあたる今年3月でOKだというので、私達は部屋を見学したあと即座に入居申し込みをした。
実は今のコンドの間取りはバチェラータイプといわれる一人暮らし用で、正方形のワンルームの一部がキッチンスペース、その横を小さな引き戸で仕切って寝室用スペースにした造りになっている。引き戸があるならワンルームでなくて1Kと言うべきなのかもしれないけれど、その引き戸はガラス製で寝室が金魚鉢のように丸見えだし、天井には照明を取り付けられる場所もないし、やっぱりこの一角は部屋とは呼べないのでは…と思っていた。そうしたらある日パートナーが
「こういう部屋ってデンって言うんだって」
と言ってきた。デン?はじめて聞いたその言葉を辞書で引いたところ-
den/
1. (野獣の)巣穴
2. a (隠れ場所としての)ほら穴; (犯罪者などの)巣、根城、隠れ家
b 小さくてむさくるしい部屋[家]
c (子供の遊戯用に主に戸外に作られた木・ダンボール製の)小屋
3. 《米略式》(通例男性の)私室、書斎、仕事[隠居]部屋; 居間
etc. (「ジーニアス英和大辞典」大修館書店より)
…全部当てはまっている気もするけれど、私の目には2.bの「小さくてむさくるしい部屋[家]」という項が飛び込んできてすごく腑に落ちた。カナダの広大さに圧倒される毎日なのに、わが家は定員オーバーのデン暮らし。しかもピカピカのコンドの高層階でって…なんだかバランスが変。おそらくカナダ人にとっては3. の「《米略式》(通例男性の)私室、書斎、仕事[隠居]部屋」がデンなのだろうけれど、我が家は2.aの「ほら穴」とか「巣」の方が近い。
よし、ここは一念発起。引越しは大変だけど、家の中でやたらとお皿を割ったり物にぶつかったりしなくてすむ生活を開拓しなくちゃ。新しい家で身の丈にあった居心地のいい暮らしを始めよう(と、意気込む)。
- Kyuena キュエナプロフィール
- フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。