2012年02月29日更新
お引越し #2
引越しが決まって以来、我がコンドへの来客が後を絶たず…それは大家さん付きの不動産エージェントの連れてくる見学希望者達だ。退去の意思をこのエージェント氏に伝えてから、連日のように色々な人がこの部屋を見に来るようになった。皆さらりと見ていくだけだが、とにかく頻繁にアポイントメントが入る。エージェント氏が必死で新しい入居者を探しているのだろうか。彼は大手不動産会社に所属しているものの、カナダでは不動産業界はあくまで個人営業制なので自分で契約成立させないと収入にならないらしい。広告でも満面の笑みを浮かべたエージェントの顔写真と個人名がずらっと並んで、皆熱心に営業しているようだ。
さらに最近はこのコンドが公開賃貸物件となり、賃貸物件を探す借り手側につくエージェント達も見学客を連れてやってくるようになった。いかにも勝手知ったる物件風にきびきびと案内する初対面のエージェント達を受け入れ続けているうちに、だんだんおっくうになってきた私。
次から次へとやって来る知らない人達に対応するのは飽きる。見学客のアポイントメントが入った日は外に出られないし、万一の場合のために貴重品はしまっておかないといけないし。なによりその度に家を来客仕様にする…気になるあちこちを掃除して、出ている物を片づけて、それなりに見える部屋にするのは大変だ。最初に抜き打ちでやって来たエージェント氏から「あの。次回は食器や洋服をもう少ししまっていただいて…」と言われて以来、どうも嫌なプレッシャーを感じてしまって余計に気が重い。
まあ心づもりはできていたものの、平日週末日夜を問わずに見学申し込みが入るのは想像以上だった。この国の賃貸物件は基本的に敷金&礼金なしのシステムだから、こういう落ちつかない状況も仕方ないのだろうか。
ところで先日カナダ人の友人カップルの引越しを手伝いに行ったら、彼らの家にはダンボール箱の代わりに緑色のプラスチック箱が沢山あって、そこにどんどん物を入れていた。この箱はフロッグボックス(FROGBOX)といって、ダンボールに代わる再利用可能なレンタルボックス。電話かインターネットで希望数を申込むとフロッグボックスが家に届くので、荷造り・運搬・荷ほどきの作業を自分達で行い、引越し完了後に空になった箱を新居に引取りに来てもらうといういたってシンプルなシステムだ。
ダンボール箱の場合一回の引越しで使い捨てると大量のごみになってしまうし、リサイクル使用するにしても再加工過程で二酸化炭素が排出されてコストがかかる。その点フロッグボックスなら壊れないかぎり何度でも繰り返し使える。
「環境にやさしい引越しをしよう」という提案が評判となって、現在はトロントやバンクーバーなどカナダの主要都市をはじめ北米23ヶ所に事業所があり、今後も拡大予定らしい。利益の1%は絶滅危惧種のカエルの生息環境修復のために寄付されるそうだ。
このフロッグボックスがなにより素晴らしいのは、期限内に箱を返却しなくてはならない点だと思う。荷ほどきを強制されれば、引っ越したあと半年も1年もダンボール箱が部屋を占領したまま…などということがなくなるのだから。
最初はすぐにでも片づけようと思いながら眺め、だんだん見て見ぬふりをするようになり、最後は空気のようにそこにあるという、”とりあえず必要ないもの”が詰まった段ボール箱の数々。何度引越ししてもなくならないあれを、フロッグボックスが解決してくれる。エコフレンドリーであると同時に、片づけが苦手とか物を捨てられない人のお尻を叩いてくれるシステムなのだ。スパルタだけどそれが正しい。
家の奥にしまい込んだ物やたまったほこりや捨てる勇気がなかった品々といやでも向き合わされる引越し。なんだか日々やり過ごしていたもろもろの積もり積もったツケが回ってくるようで、何度経験してもやっぱり苦手。
- Kyuena キュエナプロフィール
- フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。