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トロントひとかけら

2012年06月27日更新

ヴィレッジの公園にて

理由は特にないけれど、家の近くを散歩する時は大抵いつも西か南かちょっと北。西は歩いてすぐトロント大学のキャンパスや大きな公園があって散歩やランニングにはうってつけだし、南や北は店が多くて買い物に便利だからだろうか。
というわけでなんとなく存在感が薄かったのが東側。だけど外出が気持ちいい季節になったしちょいと開拓してみようか、というわけで東に進出してみました。
トロントの道路は碁盤の目状でわかりやすい。左右に長い道はすべて、町を縦断するヤング通りを起点にして西側が◯◯通りウエスト、東側が◯◯通りイーストと名付けられている。
本日私はヤング通りを越え、東側を縦に走るチャーチ通りを歩いてみた。ダウンタウンのこの通りを中心にした「ヴィレッジ」と呼ばれる界隈は、レインボーマークがあちこちに掲げられたゲイフレンドリーなエリア。ここでは道路標識もカナダ国旗も虹色だ。天気のよい昼間だからか、ゆるりと開放的でテラス席を出したカフェが心地よい。レストランで働く人達も、パティオでくつろぐお客さんも、体じゅうで太陽のまぶしいこの季節を楽しんでいるかのよう。花の写真を撮っていると「きれいよね」ときれいなお兄さんが声をかけてくる。

なんだか平和だな、と思いながら歩いていると道沿いに小さな公園が現れた。あまり人気がないけれど緑が多くて気持ちよさそうだし寄ってみるか、と何の気なしにその公園Cawthra Squareに足を向けた時、敷地の中ほどに石碑が並んでいるのが見えた。そしてそこに彫られた小さな文字を読んではっとした。それは1981年から2012年現在までにエイズで亡くなった人達の慰霊碑だったのだ。
エイズが謎の死病と恐れられた80年代、著名人が次々と感染をカミングアウトして認識が深まった90年代、なおも完治が難しい今の時代-20歳を越えてすぐの若者からトロントでは名の知れたドラァグ・クイーンまで、粛々と並んだ1000人以上もの名前と生年および没年月日を見ていると、それだけでこの病気の30年が浮かんでくる。そして亡くなった彼らの静かな主張が聞こえてくるようだった。

トロントは只今、プライドウイークの真っ最中。毎年120万人が参加するイベントの中心地は、もちろんここヴィレッジだ。普段は静かなCawthra Squareも、期間中はエイズ・メモリアル式典の会場になる。近隣の通りでもパレードやマーチが熱くうねるように盛り上がり、ファミリーイベントもあれば車椅子の貸出も万全なこの一大行事は、数あるフェスティバルの中でも際立った存在。多様な価値観を受け入れながら調和しようとするトロントと共に成長を続けているのだ。



ライター Kyuena キュエナ

Kyuena キュエナプロフィール
フランス→日本→カナダと移動生活中。
人種のモザイク都市・トロントでの楽しみは、
ベジタリアンインド料理とアールデコ建築探し。
仏語&医療翻訳と物書き業稼働してます。
現在、トロントの日系情報紙『bits』で連載中。

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