2008年10月22日更新
なぜこの人にわが家を依頼したか
「どの建築家に設計を頼もうか」。それは、家づくりの計画がスタートしたごく初期の頃からの検討課題でした。 家づくりにはさまざまな専門知識が必要です。建築の素人である建主にとって、心から信頼し、大金を委ねられるプロフェッショナルをパートナーに持つことができれば、家づくりの半分はすでに成功したようなものだと、私は考えています。 私の場合、住宅雑誌の仕事を通じて何人もの建築家を取材し、その思想や人柄に触れています。その中からひとりを選ぶというとき、建築に取り組む姿勢、価値観、作風やセンス、建主との距離感…いろいろな要素がありますが、もっとも大事なのは「遠慮せずに話し合えるか」ということだと思います。 私は建築家と話をするのは慣れていますが、妻はそうではありません。建築関係の知識はまったくない、普通の主婦です。ある程度、私が打ち合わせの窓口となるにしても、彼女が建築家の人柄や価値観を信頼できないようでは決してうまくいかない、と思いました。 次に私が重視したのは、私たちの計画に対して興味を示してくれるかどうか、ということ。資金は限られていますし、敷地だってギリギリ。夫婦ふたりだけなら革新的な思い切ったプランでも暮らせるかもしれませんが、子供がいるのである程度、将来の変化にも備えた設計でないと生活しにくい。要するに「デザインで遊ぶ」ようなゆとりはないのです。 実用的でありながら日々美しさを感じられる住まい。そんな視点を持って夫婦で住宅雑誌をめくり続けました。私のほうからも以上の条件に合うのでは、という建築家をピックアップして妻に見せて反応をうかがったり。 私なりにリストアップした建築家が2~3人に絞れてきたとき、土地探しと平行して夫婦で実際に建築家のもとへ会いに行きました。「予算3500万円で土地と建物をまかなう」という私たちの計画を説明し、実際に集めている物件情報のチラシなども持参。その帰りには妻と建築家の印象について、それこそ腹を割って話し合ったものです。 そして最終的に依頼をしようと決めたのは、この「家の時間」でも「建て主参加型の家づくり」を連載している増井真也さんでした。「工務店機能も備えた設計事務所」ということで設計・施工の両面で非常に具体的なアイディアが期待できましたし、妻の「明るいだけではない家」、「気持ちを休められる落ち着いた家」といったイメージも受け止めてもらえました。増井さんと話をしているうちに、「本質的な家を現実的につくる」というテーマが私の頭に浮かんできたのも大きかったような気がします。 土地探しのほうでも折に触れて物件の相談をしました。建築家としての観点から土地についての見解をアドバイスしてもらうためです。私たちの予算では、変形や狭小の土地しかピックアップできなかったので、「建てやすいか、建てにくいか」という判断が必要でした。いくら土地を安く買えても、建築面でそれ以上の費用がかかってしまっては意味がありませんからね。 もちろん、前回触れたJR総武線沿線の土地も見てもらいました。そこに残っていた古家をリフォームするという可能性も増井さんの頭にはあったようです。でも結局は「ちょっと傾きが大きいし、きっちり地盤と基礎をやり直したほうがよさそうですね」ということに。「100点の土地はありませんから。自分がいいと思える土地が、いい土地ということになるのだと思います」と増井さん。とくに反対すべき要素もなさそうだ。時は来た。 さっそくA不動産の営業マン、Bさんに連絡をとり、手付けを打つことに。もう12月の最終週に差し掛かっていたので、正式な契約は年明けの1月10日となりました。ここからの2か月がキツかったんだあ…。 ということで、次回は契約&融資にまつわるドタバタ劇をお送りします。正直、まだ振り返りたくないなあ…。- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。