2010年08月18日更新
「ソファが無ければリビングは解放される」
自慢ではありませんが、わが家は決して広くありません。家全体の床面積は26坪ほどで、いわゆるリビングとしては10畳そこそこ。それでも屋根なりの勾配天井で頭上に広い空間があることと、キッチンや階段と一体になっていること、掃き出し窓で土間に接していることなどにより、実際の数値以上の開放感を得ることができています。そしてもうひとつポイントになっているのは、「ソファを置いていないこと」です。普段の食事はキッチンと共有の杉の大テーブルを使っています。リビングに置いているのは、テレビとテレビ台、ピアノにちゃぶ台代わりのこたつのみ。もちろん冬場以外はこたつは布団をとってテーブルとして使用しています。
どこでもどのようにでも座れるのがわが家のリビングのいいところ←これは自慢。子どもと何か作業をするときには、こたつの上に対象物を据えて、その周囲の床に参考資料や材料などを広げることができます。
食後にテレビを見ながら家族でくつろぐときには、こたつを脇に寄せてスペースを作って、2階の寝室から布団や毛布を下ろしてきたり。
洗濯物が乾いたら、床に広げてゆったりと畳むこともできます。作業に疲れたら、そのままごろりと横になったりして。そうしたすべての暮らしのシーンを、柔らかで心地のいい感触の無垢材の床が受け止めてくれます。
もし、決して広くないリビングに大きなソファがあったら、こうした暮らしはできません。まず視覚的に邪魔ですし、ソファの周囲は「スペース」というより「通路」という認識になってしまいます。通路でくつろぐのはちょっと抵抗ありませんか? またソファを据えてしまうと、そうそう簡単に動かすことはできませんから、部屋の使い方もある程度固定されることになります。
わが家の場合は、ソファの代わりに子ども用のイスや寄りかかることのできるバランスボール、枕にもできる座布団などが、さりげなくリビング周辺に配置されています。家族それぞれがそのときどきの気分と目的によって、それらを持ってきたり片付けたりして、リビングを多目的に活用しているわけです。
私自身、実はソファのある暮らしにちょっと憧れたりもします。深々と座ってワイングラスをくるくる回したり、ばふっと横になってカウチポテトを決め込むのもいいなあ、なんて。わが家のリビングのほうなスペースでも、一人用のソファならいいのかな、とか。
ただ現実には、そんなに腰を落ち着けるような時間はそうないわけで…。子どもたちが独立するまでは、ユーティリティーリビングとして、千変万化のスペース活用を楽しむことになりそうです。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。