2010年09月15日更新
“暗すぎる照明”で心地よくくつろぐ
わが家のプランニングにあたって、設計者である増井真也さんには10項目の要望を伝えました。設計者の発想を妨げないよう、間取りや具体的な広さには触れず、なるべく抽象的にイメージとして表現するように心がけました。そのポイントのひとつが、「明るすぎない家にして欲しい」ということです。一般的に「部屋が明るい」というのは長所としてとらえられます。確かにふだん生活する場が、昼間でも常に明かりをつけないといられないような状態では、ちょっといただけません。
しかし、一方で直射日光というのは、そこに含まれる紫外線によって物質の劣化を促進させますし、夏場には赤外線によって相当の熱をもたらします。日射量が多いというのは、決していいことばかりではないのです。
ハイキングなどに行ってお弁当を食べるとき、普通は木陰にシートを敷きますよね。人は日光にさらされた状態よりも、物陰にいるときのほうが心身を休めることができるのです。
また、夜間の照明についても、似たようなことが言えます。コンビニエンスストアのように煌々と輝く人工照明のもとでは、私たち夫婦はくつろぐことはできません。読書や料理などの作業に支障が出るようでは困りますが、昼間のように明るくする必要性はない、と考えていました。
日差しの取り入れ方と照明計画の両方で「明るすぎない家」という要望は、プランに十分に反映してもらえたと思います。日中は、1階のLDK部分は土間に突き出た深い軒に守られて、真夏に南からの直射日光を受けることはありません。冬になって太陽の高度が低くなると、暖かい日差しを招き入れることができる、ちょうどいい設計です。
夜は、広間の三面の壁に設置した電球が主な照明となります。白熱電球の色みが漆喰の壁に温かく広がります。どちらかというと壁を照らす 感覚ですね。そのほかに食事のときにはテーブルの上のペンダント照明を付けますし、読書をしたいときにはクリップ式のスポットライトか、スタンドライトを持ち運ぶので、「暗すぎて困る」といった問題はありません。
私たちがイヤだったのは、天井に蛍光灯を設置して部屋全体を均一に明るくすることでした。夜は夜らしい陰影を楽しみたかったのです。
明るさはいろいろな手段で補うことができます。しかし、暗がりを作り出すのは意外と難しいのではないでしょうか。私は、少し暗いかなというくらいでちょうどいいような気がします。
人は常に元気なわけではありません。気分を落ち着かせたり、受ける刺激を抑えて五感を休ませたいときもあります。そのときどきのコンディションによって、過ごし方を選択できるようにすることは、住まいを計画するうえで、とても重要なことではないでしょうか。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。