2010年10月13日更新
秋の夜長は耳に優しい音を楽しむ
先日、わが家のピアノが調律されました。妻が子どもの頃から使っているもので、今でも7歳の長男の練習用としてまだまだ現役です。妻はピアノが好きで、いいことがあったり、ストレスがたまったり、感情が刺激を受けると鍵盤を叩いて心のエネルギーを旋律に換えています。
ピアノは妻にとって生活の必需品ですから、この家を計画するときも、「どこに置くか」は重要な検討ポイントのひとつでした。私は仕事上、さまざまな住宅を取材していますが、玄関ホールや寝室といったところに「とりあえず置かれている」状態のピアノもよく見掛けています。しかし、妻にとってはすぐ手の届く場所にないと意味がありません。
「やはりリビング回りね」というのが結論となりました。
わが家のリビング上部は、屋根勾配に沿って吹き抜け状に広がっています。ピアノの音は必要以上に反響することもなく、ほどよく拡散しているようです。
室内を構成する素材もいいのかもしれません。床、天井は無垢の木材ですし、壁は漆喰。いずれもほどよく音を受け止め、柔らかく室内に響きを返してくれる性質があります。
そのせいか、夜、周囲が静かになってから聞くCDの音、テレビの音もまたいいものです。ごく自然に、耳に心地よく流れ込んできます。
昼間は子どもたちが走り回って、ドタンバタンとまるで剣道や柔道の道場のように騒がしいわが家。ときにはピアノがメロディーを奏で、ときには家族の笑い声や泣き声が。家族が寝静まってからは、私の仕事部屋でパソコンのキーボードを叩く音が響きます。
ふと手を止めると、今の時期はコオロギやらスズムシやらの音色が聞こえてきます。朝刊を配るバイクの音に気づいたら、夜明けはもうすぐ。仕事はこれまでにして、そっと階段を上って寝室へ向かう時間です。
以前のマンション暮らしでは、ここまで音との関係を意識したことはありませんでした。コンクリートで内外が隔絶されていたせいでしょうか。今では階段を上り下りする足音の様子で、子どもたちの機嫌がわかるようになりました(笑)。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。