2011年05月18日更新
日常生活を支える住まいの重要性
東日本大震災の影響はまだまだ一段落とは言えません。ただ、計画停電が実施されなくなったり、物流の混乱による買い占め騒動がおさまったり、と直接の被害を受けていない地域では、ある程度、震災前のような日常が戻ってきつつあるような感覚を持つことができはじめているのではないでしょうか。今回、私たち家族のよりどころのひとつとなったのは、紛れもなく我が家です。度重なる余震のたびに寄り添った8寸角の大黒柱がなんと頼もしく思えたことか。子どもたちは大きな揺れがくると、杉のテーブルの下に滑り込むワザも身につけました。「揺れがおさまるまでは家の中にいたほうが安全」。そう実感することができました。
夜間の計画停電も2度ほど体験しました。家中のろうそくと懐中電灯を集めて、暗がりで夕食をとったこともあります。子どもたちは夕方のうちに風呂に入れて、夕食のあとはすぐに寝かしつけ。暗がりの中でも、1階のLDK、2階の寝室がオープンに連続する我が家の間取りでは、常に家族の気配を感じることができ、子どもたちが怖がることもありませんでした。
また、停電の前や余震のたびに、路地に三々五々集まるご近所のかたの様子も土間越しに室内に伝わってきます。なにかあればすぐに私たちも外に出て話に参加できる。家に居ながらにしてそんなつながりを感じられることも、私たちが不安と縁遠かった理由のひとつでしょう。
春休みが終わり、小学校、幼稚園へとそれぞれ子どもたちを送り出し、家で仕事をしていると「日常のありがたみ」をひしひしと感じます。私たち家族の日常はこの家なしには語ることはできません。そのくらい強い結びつきが生まれていることを、今回の災害であらためて自覚することができたように思います。
それを思うと災害によって家を失ってしまった人たちの痛みははかりしれません。また日本全体で新たな「日常」を築き上げていくためにも、被災地への支援の意識と復興への関心は、長期にわたって維持し続けていくことが必要である、と強く感じています。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。