2011年11月16日更新
住まいの中心にあるもの
最近取材した工務店のオヤジさんの言葉で印象に残っているのが、「家の中に手の掛かるものがあったほうがいいんじゃない?」ということ。これは取材にうかがった住宅に据えられていた薪ストーブについての会話のなかで出てきたフレーズ。そこの工務店では積極的に薪ストーブの設置を勧めています。薪を割ったり、買ったり、灰を捨てたり、煙突を掃除したり。うまく薪に火がついても様子を見て足していかなければなりません。ファンヒーターやエアコンのような、スイッチひとつで暖まるものではないだけに、そこの家でも「無駄づかいなんじゃない?」という奥さまの反対が根強く残っていたとか。
そしてどうなったかというと…。ご主人は一生懸命に薪を割って、夏の間にたっぷりとストックを用意して、冬には火の番人に。輻射熱が家じゅうに広がって、ストーブは見事にリビングの主役となっていました。「薪ストーブは、3回人を温めるっていうんです。薪を割ったとき、火にあたっているとき、そしてその火でつくった料理を食べたとき」とは工務店のオヤジさんのコメント。ゆらぐ炎に引き寄せられるように、家族がストーブの周囲に自然と集まってくるのだそうです。
住まいには何かそのような人のよりどころとなるような「仕掛け」が必要な気がします。わが家では予算の関係で薪ストーブは早々と脱落してしまいましたが、杉の食卓だったり、大黒柱であったりが、「中心」にあたるように思います。家族の誰もが触れることができて、身を寄せられる存在があることで、住まいには落ち着きが生まれるのではないでしょうか。
ちょっと前までは、テレビもそのひとつだったかもしれません。ブラウン管のずっしりした存在感はなかなかのもので、住宅を撮影するときには「どこへ動かそうか」と悩まされたものです。ただ、今は薄型になってすっかりおとなしくなってしまった感があります。
あるお宅では大きなソファが「中心」の役割を果たしていました。家族が代わる代わる立ち寄って、思い思いに身を沈めていました。
また、冬場に引力を発揮するのが、コタツや電気カーペット、ファヒーターなどです。季節やシチュエーションに合わせて、それらの「中心」や「仕掛け」をうまく使い分けることができれば、常に居心地のいい住まいになるような気がします。
冒頭で触れた薪ストーブのように、意識的に住まいづくりに取り込むのもいいですが、自分たちで家具や設備を「中心」に仕立てるのも面白いかもしれませんね。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。