2011年12月14日更新
暮し方を変える時代へ
この季節になるとわが家のリビングに据えられるのがクリスマスツリー。昨年に引き続きIKEAで生木のツリーを買ってきました。子どもたちに飾り付けをさせて体裁を整えると、もうしっかりとした存在感を出し、家族の一員のような顔をして鎮座しています。昨年撮ったツリーと子どもたちの写真を見比べると、子どもたちの成長が感じられました。今年は3月の震災を契機とする、さまざまなことがあったので、よけいに感慨深いように思います。
何気ない日常の大切さ。暮らしを支えるエネルギーの重要性。危機を支え合う人々のつながり。家族の生活を守る住まいのありがたさ。辛い、悲しい出来事が多かったのと同時に、決して見失ってはならないことについても、深く思い至ることができました。
ダメージを被ったのは東北だけではなりません。日本全国の多くの人々の心に大きな傷跡を残し、国の経済やエネルギー事情にも深刻な影響が及んでいます。目をそらそうとしても、その重圧は私たちの暮らしをじわじわと侵食していることは間違いありません。地震大国で暮らすリスクは否定しようがありませんし、エネルギー問題における選択肢について、メリットとデメリットをはかりにかける作業ももっとシビアにおこなわざるをえません。
もう、3.11以前の、無自覚な日々には戻れないことにあらためて気づきます。現在、限られたエネルギーをIT制御によって効率よく使うという「スマートハウス」の構想が大手ハウスメーカー各社で発表されています。ある会社では、ロボットの自動音声によって窓の開閉や室温管理などについて住まい方の指示が出るのだとか。従来の省エネ住宅では断熱・気密性の性能向上が主眼に置かれていましたが、ついに住まい手の暮らし方にまで踏み込んだ提案が行われるようになってきたわけです。
計画停電や震災直後のモノ不足、ガソリン不足を経験した人はとくに実感したと思いますが、「ふだんの生活を変える」というのはとても大変なことです。何気なく行っている一挙手一投足に気を配らなくてはなりません。精神的にもかなりのストレスになるはず。
それでも、3.11以降に生きる私たちは対応していかなければなりません。幸いなことに私たちの時代における科学・技術はそれなりに進展していますから、スマートハウスのように日常レベルで暮らしをバックアップする住宅のテクノロジーを利用することができます。また機械に頼らずに生きてきた日本の先人による生活の知恵も今に伝えられています。新旧の英知をバランスよく生かす姿勢がこれからは求められるような気がしています。
情報をきちんと吟味し、常に選択肢や逃げ道を確保する。クリスマスソングに浮かれる子どもたちを見ながら、今年得ることができた教訓の意味をあらためて考えてみました。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。