2012年06月20日更新
設計者との相性は会話とセンスで決まる
家を建ててからよく聞かれる質問がいくつかあります。そのひとつが、「やっぱり自分のこだわりをいっぱい盛り込んだの?」。うーん。そういえばそうだし、そうでもないといえばそうでもない。どうも煮え切らない返事になってしまいます。 「こだわりのわが家」というと、図面にいっぱい赤ペンで指示を書き込んで、部屋ごとにああでもないこうでもないと思いを巡らせて、部材から設備まで何から何まで指定して、というイメージを持たれるかもしれませんが、ウチではそういうことはほとんどしていません。なぜならそうした作業は設計者の仕事であると考えたからです。 打ち合わせの初期に求める家のイメージを伝えたあとは、間取りも仕様も設計者の提案に任せました。プランの中で「ちょっと違うかな」という点は率直に伝え、どのように修正してくるかを待ちました。だって、プロが提案してくるものに対して、素人が適切に修正できるとは思えませんでしたから。 その期待通り、増井さんが次の打ち合わせで示してくれた修正案については的を外していたことがありませんでした。これは私たちと設計者である増井真也さんとの間で、「何を大事にするか」という価値観がある程度共有できていたから可能な作業だったのかもしれません。 依頼先を選ぶ際は、私だけでなく妻も設計者のことを信頼できる状態でなければならないと考えていました。家づくりに数学におけるような絶対的な回答はありません。方針に沿って条件に適した選択肢の中で、設計者と施主がともに「これだ」とうなずけるものを信じる、ということになります。夫婦のどちらかがその選択肢に疑念を抱いてしまったら、たちまち計画はぎくしゃくしたものになりますし、そんな引っかかりを残したまま進んでしまうと、それは「後悔」となってしまいます。 設計者と施主の間の、そうした関係を表すのには、「相性」という言葉がいちばんしっくりくるような気がします。きわめて曖昧なことばでありますが…。 それは価値観だけでなく、人間的な信頼感でもあり、大金を託すパートナーとしての認知でもあり、難局をともに乗り越えるための相棒と思えるかどうかをはかる言葉でもあります。 相性をはかることって、実は日常でもしばしば行っているモノです。私たちが通っている美容院や病院、飲食店は、値段や商品、サービスだけではなく、担当者の人柄や会話、立ち居振る舞いなども判断材料になっているはず。依頼先選びで迷ったときは、ふだん自分たちが大事にしているのはどういうことなのかを見直してみると、参考になると思いますよ。- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。