2012年11月14日更新
お向かいの建て替えと路地の風景
お向かいの家が引っ越され、新たに分譲住宅として建て替えられることになりました。わが家の土間越しに、古家の解体から地盤改良、基礎工事まで進む様子をじっくりと眺めさせてもらっています。
建物解体後、そこにはぽっかりと空いた、まさに「空間」しかありませんでした。ほんの数日前まで築30年にもなろうという存在感のあった建物があったのに、それはまるでなかったかのように。
そして、その奥には今まで見えなかった「その向こう側の家」が姿を現しました。家が1軒なくなることで、新たな風景が生まれたのです。家というものは、そこに住む人の個人的な所有物ですが、周囲の人たちにとっては環境の一部であり、風景そのものなんだなあとあらためて実感しました。
そう考えると、住宅の建築現場で近隣の住民から「軒の出が」とか「壁の色は」とか「建物の高さは」とか「窓の位置は」などと、クレームやそれに準じる関心が寄せられるのも、また無理のないことなのかもしれません。やはり、そういう面でも建てる側には周囲に対する責任と配慮が求められるのでしょう。
わが家でも外観のデザインを検討するうえでは、「周囲の建物の中でどのように存在するだろうか」という観点で、屋根形状や外装の素材、色などの各要素に配慮がなされています。今、わが家を路地の中で見回してみて、違和感なくとけ込んでいるのを確認して、ちょっとほっとしています。
お向かいは現在、基礎工事が終了しています。数日後には上棟が予定されている、というお知らせの紙も届きました。電柱に立てかけられている看板には、予定している間取りが掲載されていますが、さて実際はどうなることか。
基礎の段階ではまだまだ完成した姿は予想できませんが、どうか、あまり無理のない外観でありますように。そして、路地の風景が大きく損なわれるものでありませんように。
近隣住民としては、身勝手で個人的な祈りを、(存在するのなら)建築の神さまに捧げるのみです。
- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。