2016年02月05日更新
身も心も温かくなれる環境で健康に暮らす
私の場合、取材にうかがった住宅だけでなく、出張先で宿泊したホテルやプライベートで訪れた店舗などでも、空間の演出法やデザイン、内装・外装、設備機器などのディテール等に目が向いてしまいます。一種の職業病のようなものなのかもしれません。
1月に出張に向かった岩手県二戸市では、厳しい東北の寒さを体感しました。そのときは降雪は例年ほどではなかったそうですが、雲が重く垂れ込めて、気温は日中でも零下のまま。取材先の工務店さんとともにしばらく施工現場を巡っていると、あまりの外気の冷たさにまるで顔の表皮が凍り付いていくような感覚さえありました。
取材が終わり、宿泊する旅館に戻る頃には、あたりが一気に暗くなり、明らかに気温がいっそう下がっていくのを感じます。その旅館は昔ながらの木造で、見るからに断熱性の低そうな建物でした。チェックインの際に通される土間には大きなダルマストーブが据え付けられており、まるで地方の駅の待合室のようでした。
冬の寒さにさらされると本当に疲れるものです。血行が悪くなるせいか、冷気に身をすくめ続けるせいでしょうか。
ただ、通された部屋はあらかじめエアコンでしっかり暖められており、敷かれた布団には湯たんぽが入れられていました。宿の気遣いが感じられたこともあり、ガチガチになった心身がほっとほぐれたのを覚えています。
また廊下の開口部には、窓枠の内側に透明なビニールシートが貼られており、窓ガラス戸の間に空気層をつくることで、せめてもの断熱を図っているようでした。古い木製の窓だったのですきま風を防ぐ機能も果たしているのかもしれません。
最近の研究では、朝、気温が低い家では住まい手の血圧が高くなり、健康にもよくない影響が及びやすいというデータがあるそうです。断熱・気密性の向上は、省エネ・光熱費削減だけでなく、住まい手の心身の健康にも多大な貢献を果たすということが明らかになっています。
宿の方の配慮や工夫に感謝しながらも、健康に暮らせるわが家のありがたさにもあらためて気づくことができました。

- 渡辺圭彦プロフィール
- 1970年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、扶桑社「新しい住まいの設計」編集部に勤務。その後、(株)ハウジングエージェンシーを経て、編集・制作会社へ。2004年よりフリーに。著書に「家づくりのホント~欠陥住宅にハマらない心得」(週刊住宅新聞社)など。2009年2月に自邸が竣工。