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今、マンションは買いか、待ちか

2016年09月28日更新

今買いか、5年後か。膨大なシミュレーションから見えたこと

 ここまで本連載は、「今マンションは買いか、待ちか」という本題でありながら、世界や日本の経済の動きを俯瞰することや、住宅ローンのリスクを理解することの重要性について述べてきた。ご存知のように足元のマンション価格が高額化している一方で、数年内に価格相場が下落する可能性がささやかれるなど、今は見通しが難しいマーケットにある。そんな状況下でより的確な判断をするために、できれば知っておいたほうがいい情報をご紹介してきたとご理解いただければ幸いだ。その長い前置きが終わり、今回からいよいよ本題に切り込んでいこうと思う。
 実は本連載の執筆オファーをいただいた時点で、今買うか、待つかについてさまざまなシミュレーションを試みた。まず、購入するタイミングは「今」と「東京五輪が終わった5年後」の比較が最も関心事ではないかと考え、それを前提に試算を行った。そのうえで5年後に同クラスのマンションの新築相場が現在と「変わらない」「5%ダウン」「10%ダウン」に場合分けしてみたり、総コストの比較期間を今から5年後、10年後、15年後と切り出してみたり。さらには購入価格や待つ場合の家賃の設定によっても、当然ながらシミュレーション結果は変化する。あまりにも変数が多く試算したエクセルのシートが膨大になってしまったうえに、変数の組み合わせ、すなわち家賃や購入予算など検討者の状況次第で結論も変わってしまうのだ。地道な作業の連続に正直辟易としたわけだが、このシミュレーションを繰り返すなかで実はいくつかの重要なポイントが見えてきたのだ。筆者としては、設定が限られたシミュレーションの結果をお見せするより、今買うか待つか迷っている人ができれば自身のケースで判断材料を見いだせたほうがいい。そのための手法や着目すべき要所について、今回と次回に分けてお伝えしようと思う。

 まず最大のポイントは、総コストの比較については、「待つ5年間の賃貸費用総額」と5年後に今買うのと同等の物件を買うとしてその時点での「値下がり額とその額にかかる利息の合計」のどちらが大きいか、で概ね結果が決まってしまうということだ。今だろうが5年後だろうが、「買う」ことに付随する費用(頭金や購入諸費用、管理費や固定資産税など)は同等の物件を買えば、かかる時期が5年ずれるだけでコスト規模は同等になる。したがってこれらはシミュレーション上、大きな変数とはならない。もちろん、20年間とか30年間とか、比較期間を切り出せば、今買うほうは5年待つ場合より、固定資産税や管理費等を5年分多く払うことになる。しかし、どちらも変動型金利を借りる前提で考えると、マイナス金利政策がとられ住宅ローン金利がほぼ底といえる現在から5年待つ場合、いつかくる金利上昇を、今買うより「5年分ローン返済が遅れている状態」で迎えることになる。そうなれば5年待つほうが金利負担はより大きくなり、固定資産税や管理費等の差額を相殺する方向に働くため、結局コスト比較おいては影響が小さくなるのだ。

「待つコスト」と「今買うコスト」を天秤にかける

 何パターンもの比較をしていくうち、コスト比較は前述の重要ポイントをシンプルに比較して目安をつければ十分という結論に達した。たとえば5年待つ間の家賃が15万円であれば、礼金や更新料などを含めて5年間の賃貸費用総額は約1000万円、家賃20万円ならば約1300万円となる。これが5年待つ場合にのみかかる「待つコスト」となる。対して、仮に今8000万円のマンションを購入するとして、5年後に同等の物件の新築相場が5%値下がりしていれば400万円、10%値下がりなら800万円、それぞれ5年待つより多く借入れることになる(頭金が同額ならば)。その借入差額とそれにかかる利息が、5年待つより今買うほうが余分に支払う「今買うコスト」となる。具体的に、借入額1000万円当たりの利息を35年返済で試算すると0.5%の変動金利なら約90万円、1%の固定金利なら約185万円になる。つまり借入差額の概ね1.1~1.2倍が「今買うコスト」と見立てればいいわけだ。したがって、家賃15万円を払っている人(5年間の賃貸コスト約1000万円)が、5年待って欲しいクラスのマンション価格が今より1000万円値下がりしていれば文句なしに待ったほうがトクになり、500万円程度しか値下がらなければ利息を含めても5年分の家賃を挽回できないという想定ができる。かなり大雑把な比較に思えるかもしれないが、将来の「値下がり」といっても現実には全く同じ物件を今と5年後にそれぞれ新築で買うことを比較検討できることはまずありえないし、精緻にシミュレーションしてもあまり意味をなさないのだ。それよりも、影響値が大きなファクターでシンプルに目安を測れたほうが、誰でも自身のケースに照らして実践的に応用できるわけで、そのほうがよほど有意義だ。


■「待つコスト」と「買うコスト」のイメージ図


※頭金と購入諸費用はどちらも同等にかかると考え、図では省略


 現在、自身が払っている年間賃料を計算し、待つ年数とその間の更新料を考慮すれば「待つコスト」がはじき出せる。一方「今買うコスト」は、仮に今買うとしたら検討したいマンションがいくらで、それと同クラスのマンションが数年後どの程度値下がりしそうかを想定し、その想定値下がり幅を1.1~1.2倍すれば試算できる。実際には、数年後の値下り幅など正確には測りようがないが、過去の価格推移のデータを見るとある程度の幅はイメージできる。たとえばリーマンショック後のミニバブル崩壊時に、都区部の新築マンション平均価格は5930万円(2008年)から5190万円(2009年)に1年で12.5%も下がっている(不動産経済研究所調べ)。この値は都区部の平均値なので、なかには12.5%以上下がったエリアもあるだろう。このことからリーマン級の有事があれば不動産相場は単年で12.5%以上変化しうるという事実が読み取れる。ただし東京五輪が終わるとか東京都の人口が2020年でピークアウトするとか、その程度の変化が不動産市場にリーマンショックほどの影響を及ぼすとは考えにくい。検討するエリアにもよるが、最大でもリーマン後より影響を小さく見積もるのが妥当だろう。さらに言えば、現在の相場からほとんど値下がりしない、という未来もありえない訳ではないのだから、値下がり率を0%、5%、10%(心配なら15%も)程度に刻んで、自身のケース(現在の家賃、待つかもしれない年数、今買うとしたら予算はいくらか、など)で「今買うコスト」「待つコスト」を比較してみるといいだろう。そのうえで様々に流布されている不動産市場の未来を予測した諸説記事などを読み、最も説得力が高いと思われるシナリオと、その場合の自身のシミュレーションを照らし合わせれば、結果はどうあれ納得のいく判断がしやすくなるはずだ。

 「今買いか、待ちか」というテーマに対し、今回は「待つコスト」と「今買うコスト」による比較方法について紹介したが、次回は、現行の「住宅ローン控除」を最大限に活用する方法について考察を進めたい。というのも、今と5年後の購入を比較するにあたり、現在の住宅ローン控除制度は2019年6月に期限を迎え、それ以降は縮小される可能性があるからだ。今買えば確実に使える制度をフル活用するメリットを知らずして、5年後の購入と比べてもクリティカルな判断はできない。次回もぜひ本連載をチェックしていただきたい。



エディター&ライター
山下伸介
エディター&ライター 山下伸介

京都大学工学部卒業後、株式会社リクルート入社。二十数年にわたり、同社情報誌の編集に携わる。2005年より週刊誌『住宅情報マンションズ』(現『スーモ新築マンション』)編集長を10年半つとめ、『都心に住む by SUUMO』、MOOK『つぎに住むならどんな家?』なども手掛ける。2016年に独立。住宅関連テーマの編集企画、執筆、セミナー講師などを中心に活動中。更新中ブログ。一般財団法人 住宅金融普及協会 住宅ローンアドバイザー運営委員(2005年~2014年)。

 






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