2013年05月09日更新
総合設計制度を活用したマンションの資産価値
総合設計制度という言葉を耳にしたことはありますか? これは不動産開発の手法の一つで、「歩行者が利用できる空地(公開空地)を設けるなどにより、容積率制限や斜線制限、絶対高さ制限を緩和」(国土交通省)するものです。
活用例としては、タワーマンションなどが挙げられるでしょう。現行制度の規制では不可能な規模の超高層建築物であっても、敷地周囲に通行可能な空地を設け、容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)や高さ制限を緩和して建てられた物件は少なくありません。そのような現地では、制度を使いましたという印に看板が設置されています。そこには公開空地部分が敷地配置図上に明示され、利用しても構わない旨が記載されています。
買った人にもメリットは享受されます。代表的なところでは眺望でしょう。背が高くなった分、素晴らしい眺めを手にすることができます。隣接する建物との間に余裕が生まれるケースもありえます。なぜなら、空地を設けるため、その分距離を保つことができるからです。また公開空地には緑を植え、憩いの場として設えますから、これなども物件の印象をプラスに変える要素といえるでしょう。
なかには、非常に稀ですが低層マンションに総合設計制度が活かされた例もあります。物件名は「パークコート二子玉川」(三井不動産分譲)。本来、3階建てが限界の第一種低層住居専用地域において、高さ(10m制限)が緩和され、5階建てのマンションが完成したのです。低層住宅街において、高さの上限を超えることは、最も御法度のように思えるのですが、これには特殊な事情がありました。
従前その土地は、長い間庭園として使われていたことから、立派な樹木や石がたくさん遺っていたそうです。開発するにあたって、担当者は「いかにその豊かな自然を残そうかと考え、総合設計制度の活用を思いついた」。空地部分が多ければ、そこにあった木を植え戻すことができる。四方道路であったため、北側の日照に影響を及ぼさなかったことも有利に働いたと想像することができます(画像<下>参照)。
現地の近くまで行っても、そこにマンションがあるとはわからないくらい、木が鬱蒼と生い茂っています。遠目には森にしか見えません。そばまで行って、ようやく外壁が見えてきます。「森の中にはマンションがあるのか」といった感想を抱くわけですが、まさかそれは後から建てたものとは誰も思わないのではないでしょうか。そのくらい珍しい景観なのです。時間が経てば経つほど、その希少性は高まっていくものと想像します。
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- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)