2015年05月21日更新
「公道の付け替え」に見るマンション建替え事業の多様化
「アトラス調布」は京王線「調布」駅から徒歩14分。閑静な住宅街に立つ、竣工したての分譲マンションです。じつにはこの建物、老朽化団地の建替え事業によるもの。その主な概要は以下の通りです。
従前 | 建て替え後 | |
建物名称 | 調布富士見町住宅 | アトラス調布 |
分譲主 | 東京都住宅供給公社 | 旭化成不動産レジデンス |
竣工 | 昭和46年(1971年) | 平成27年(2015年) |
延床面積 | 約10,470m2 | 約35,060m2 |
階数・棟数 | 地上5階建て・5棟 | 地上8、6階建て・2棟 |
総戸数 | 176戸 | 331戸 |
間取り | 3DK | 2LDK~3LDK |
専有面積 | 50.83m2 | 約56~約95m2 |
集合住宅の建て替えは、多数存在する所有権者の合意形成によってはじめて実現します。最近でこそ建て替え事例を散見するようになりましたが、古い建物の耐震化はまだまだ十分とは言えない状況ではないでしょうか。合意を得るためには、予算の組み立てや仮住まいの選定など様々な負担が強いられます。その解消にあたってはプロのアドバイスや過去の事例から学べることが少なくないと思います。「アトラス調布」では公道の付け替えという特殊な手法が採用されました。
旧市道位置のまま建て替えを検討した場合、規制や形状から敷地の大きさを十分にいかした建物を建設することが困難であったこと。また、近接する公道や公園との動線の問題からも移設を強く要望したということです。市との協議は容易でなかったようですが、景観に優れ歩行者に快適な「コミュニティ道路」に変換することで認可を得ました。建ぺい率と容積率の変更と合わせ、従前より大幅に増量した床を確保することが可能に。建て替えの大きな推進力になったと推察します。
事業協力者である旭化成不動産レジデンスは「アトラス池尻」(2013年5月竣工)では建て替えに際して隣接公園(世田谷区)の移設をしています。道路や公園を移動するといった、一見素人では思いつかないようなアイデアも実績や技術力が可能にするというひとつの例でしょう。調布富士見町住宅の建て替え事業者候補には4社のデベロッパーが手を挙げたようですが「同じ調布市内の建て替え実績(国領)が決め手になった」のだとか。アイデアの豊富さと同時に、複雑な諸手続きに慣れているということもパートナー選定に有利になったようです。
「アトラス調布」の移設された公道(2015年5月18日撮影)
- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)