2016年03月17日更新
「荏原町駅前地区防災街区整備事業」完了に見る不燃化の重要度
1923年に起きた関東大震災(1923年)では10万人を超える死者被害があったうち、火災を原因とする割合が9割弱、人数にして9万人を超えるといわれています。火を使う時間帯に発生したことや風向きなどいくつかの不可避な要因が重なったようですが、「人口集中による家屋建築の過密状態」がその大きな理由でした。「江戸の大火」なる言葉があるように、度重なる火災の歴史は数百年もさかのぼるわけですが、近代に入っても抜本的には改善されていなかったとも受け取れます。
「木密地域」とは、老朽化した木造建築が集まる道路の狭い一帯を指します。火災の延焼、地震による倒壊、消防活動や避難行動が円滑に行えない道路事情などを解消するために、改善を必要とする地域を東京都が「木密地域」として定めています。さらに現状を調査したうえで危険度のランクを示し、優先的に取り組むべき地区を「不燃化特区」として指定します。
東急大井町線「荏原町」駅から「旗の台」駅周辺の一帯は、街の中央を商店街が貫く、昔ながらの住宅街です。低層住宅を中心とした街並みは、都心に近いロケーションでもあり暮らしやすそうな印象を覚えます。しかし、街中を歩いていると公園など空地が意外に少ないことや歩車分離がなされていない幅員の狭い道路が入り組んでいることに気付きます。所在地は「旗の台4丁目」「中延5丁目」。東急大井町線南側で立会川緑道の交差する一帯、地形でいう「谷底低地」は不燃化特区に指定されています。東京都都市整備局の地域危険度では火災危険度が一部最上の「5」にランク付けされています。
このたび域内の一画、「荏原町駅前地区防災街区整備事業」が完了。下の画像「左」が従前の画像です。小さな店舗が軒を連ねるアーケード式「駅前商店街」はそのほとんどが築50年以上、密度が高く「防災上極めて危険な地区」でした。20数名で整備事業組合を設立(2013年)、首都圏不燃建築公社と三菱地所レジデンスを事業パートナーとして店舗併設型分譲マンションを計画。2016年2月末竣工しています(画像「右」)。
鉄筋コンクリート造地上17階建てのタワーマンションは、1階部分に駅改札口から直接通り抜けができる通路を設けたり、外周に十分な幅員の歩道を巡らすなど居住者以外の歩行者利便も考慮していることが特長のひとつです。建物は中間免震を採用、帰宅困難者を受け入れるスペースも確保するなど防災を強く意識した設計になっていました。
画像提供:三菱地所レジデンス
- 『家の時間』主宰
坂根康裕 リクルート『都心に住む』『住宅情報スタイル』元編集長。ブログ「高級マンション TOKYO」。All About「高級マンション」ガイドも努める。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』(ダイヤモンド社)