2009年07月08日更新
カーテンは開けた者勝ち?
皆さんは家でふだん、視線を遮るレース様のカーテンを閉めていますか?
私は「開けておく派」です。
空間の広い、狭いを感じるのは、物理的な部屋の大きさだけに左右されるのではないと思うのですね。
視線が抜ける距離が長いほど、その空間が開放的でひろびろとしているように感じるのではないでしょうか。
つまり、たとえばリビングの部屋自体が6畳というサイズでも、隣の空間とつながっていて視線が抜けたり、大きな窓からテラス、庭、その先の街の緑や空までが見えたりして、長い距離を目で追えるとしたら、「この6畳の部屋、狭いなぁ」とは感じないような気がします。
反対に、6畳の部屋のドアや窓のカーテンを閉め切り、四角い6畳の部屋から視線が一歩も抜け出ないとしたら、どうでしょうか。
時にはそんな空間もコージィでいいのかもしれませんが、私はたぶん、長居はできないと思います。閉所に居ると息苦しいと感じてしまうからです。
だから部屋のカーテンも、基本は開けたまま。
寝室で朝の日差しを遮るためや、冬の夜、断熱のためには厚いカーテンを閉めますが、昼間レースのカーテンを閉めることはほとんどありません。
外から見られたって別にいいや、という感じ。それより私が外を見たい。外からの視線を遮るが故に、自分が外を見られなくなるのは困るというか、そちらの方がソンな気がするのです。
だからマンション住まいの時も、お向かいの部屋の人とたまに視線がかち合う時がありましたが、基本は「気にしない」。しかし先方はもっと繊細だったのでしょう、気にしたらしく、その度そろそろとカーテンを閉められました。
以前そんな話をしたら友達が、「カーテンは開けた者勝ちなのよ」と言いました。なんでも、気にして先に閉めが方が、ずーっと開けられなくなるからだそうです。確かにその説が当たっていたことを、私は身をもって体験しました。
お向かいさんと目が合う→私は気にしないからカーテンを開けっ放し→お向かいは閉める→私にとっては気にする要素が減ったので、ますます開けっ放し→繊細なお向かいさんは開けるタイミングがなくなる……
こんな連鎖ができ、かくて私は開放された窓から、年がら年中空や遠くの景色を眺めながら過ごせたのでありました。
取材に出掛けると、地方のゆったりした敷地に建つ一戸建ての家でも、昼間全ての窓にレースのカーテンをぴったり閉ざしている家が少なくないのに気づきます。せっかくこんなにゆとりのある街並なのに、カーテンに囲まれて過ごさなくてもいいのになぁ、外から見られたっていいじゃないの……
などと思ってしまいますが、世の中、もっとデリケートな方が多いということなのですね。
同様に、都市型住宅でテラスなどの外側に壁を立ててプライバシーを守るデザインを見掛けますが、私は個人的には壁がない方が好きです。居ながらにして見えるのが空だけというのはちょっとさびしい。見えるのが空だけだと、遠近感がわからないし、道を通る人や木々が揺れる、街の様子も見ていたい。たとえそれがとびきり美しい風景ばかりじゃないとしても。
写真の小泉一斉さんの住宅は、南面と北面に大きく開口部をとって、北の借景や南の庭、畑などを眺めながら過ごせる設計でした。私もやっぱり、そういう開放的で大らかなつくりの家が好きだなぁと思いました。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。