2009年08月26日更新
「光熱費ゼロ」の流行
皆さん、よい夏休みを過ごされましたでしょうか。
始めに、水害や地震の被害に遭われた方々へ、お見舞い申し上げます。
国内の行楽地へ出かけた方は、道路渋滞にあいませんでしたか?
麻生内閣が決めた休日の高速道路料金千円政策、
なんだかちょっとヘンだな~と思うのは私だけでしょうか。
高速料金が安いから、電車や飛行機でなく車で出かけよう……
多くの人がこう考えたとしても、電車は運休にはならないので、
電車や飛行機を動かすエネルギーは使われるわけです。
とすると、車で移動する人が増えた分、CO2が増えてしまっているのですね。
結果、ちっともエコではないですね??
CO2排出削減を謳っている政策と、矛盾してはいないでしょうか。
ちょっとヘンだな~その2。
最近は経済不況とユーザーの支出への不安感を背景に、
「家計にやさしい」をテーマに売り出すさまざまな商品を見かけます。
その一つが「光熱費ゼロ」を目指す住宅。
もちろん、光熱費がゼロになったら家計的には嬉しいですよね。
それが地球環境にもやさしくて、フェアだったら、言うことなし。
でも。
たとえば太陽光発電。
家庭でつくった電気を電力会社に売る「売電」、
年内にも始まる固定価格買い取り制度の政策によって
さらに普及すると思われますが、
現在の倍程度の高い金額で売電できる理由を
皆さんご存じですか。
高く買い取る分の電力会社の負担は、一般の電気料金に転嫁されるのです。
現在、全戸数のおよそ1.5%しか太陽光発電を設置していませんが、
太陽光発電をしていない残りの9割以上の人にとっては
電気料金が上がるだけなので、ここで不公平感が生まれそうです。
さらに、売電の問題点は、直流の電源を交流に変えることによるロス。
家庭でつくった電気は売ったりせずに、
家庭で使えばいいのではないでしょうか。
タイムリーな話題のためか、
建築家の丸谷博男さんのブログにも同様な内容があり、
大変共感したので、下に引用させていただきます。
「家庭で発電したものを電気会社に売る。そうすると太陽電池から直流の電源を交流に変えて電線を通して電力会社へ、使う時にはまた電線を通して各家庭へ。このプロセスでは、三度のシステムを通過しています。高効率で90パーセントの効率であっても結果は72.9パーセントになってしまいます。変換することで、20パーセントもエネルギーを失ってしまうのです。地球に役立つのは、太陽電池で発電した直流の電源をそのまま家庭で使う事です。直流のモーターで換気扇を回したり洗濯機を動かす事なのです。それが本当の省エネだと思います。深夜電力利用もおかしいです。昼間も夜も電力消費に代わりはありません。ちっとも地球には優しくないのです」
高速料金にしても、太陽光発電にしても、
使う人の経済負担を軽くすることによって経済効果を上げようとする政府。
しかしそこに、使わない人や地球への負担が生じている点に
少々疑問を感じます。
家計にやさしいことが、必ずしも地球にやさしいとは限らない。
ほんとうのエコ、難しいですね。
環境先進国デンマークで撮った一枚。
コペンハーゲンの名所、人魚姫の像の向こうに目をやると、
彼の国が力を入れている風力発電の風車が見える。
ちなみに、本コラムタイトルバックの写真もデンマークで撮ったもの。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。