2010年02月24日更新
龍馬さんと鰹と皿鉢料理と
数年ぶりに土佐の親戚を訪れた。
土佐と言えば今年はNHK『龍馬伝』の影響で一種のブームとなっており、
確かに高知駅前にも龍馬のパビリオンなどができている。
これから気候がよくなれば観光客も増えるのだろう。
その土佐は私の母の故郷で、私は生まれた時から夏を土佐で過ごしてきた。
だから土佐は、私の第二の故郷。深い山と濃い青の海、何本もの清流のある
彼の地の風景が、私にとっての「自然」のイメージである。
そして尊敬する人はもちろん、坂本龍馬。
今年は久々に桂浜にも降り立ち、龍馬像にも挨拶をしてきた。
土佐と言って普通、思い浮かべるのは、
龍馬の他に鰹のたたきではないだろうか。
土佐の鰹のたたきは藁焼きした鰹ならではの美味しさだと思う。
藁に火を点けて一瞬に燃え上がらせた炎で鰹の表面だけを素早く焼くことで、
中の身を紅く新鮮なままに旨みを封じ込め、酸化を防ぐ。
藁が燃える時に出る煙や匂いが魚の臭みを消し、
新鮮で生臭くない鰹を堪能できるというわけだ。
今年は初めて久礼という港町に行き、いつも鰹を送ってもらう
田中鮮魚店を実際に訪れてみた。
本来、初鰹は3月半ば頃獲れるのだが、今年はなぜか1月から
上がっているそうで、この日も朝獲れたという大きな鰹が
店先に並んでいた。
切りたてのサクを一つ、たたきにして送って欲しいと頼むと、
お店のおじさんが早速藁焼きにしてくれたので、
すかさずケータイでカシャ!
もっとシャッターチャンスを。。。と思う間もなく、
おじさんは大きな炎を上げた藁で鰹の表面を素早く焼き、でき上がり。
その後、挨拶に出向いた親戚宅では宴席を設けてくれていた。
土佐の宴会と言えば、皿鉢料理。
特大の皿に鰹のたたきや押し寿司、太巻き寿司、海老、貝、
そしてフルーツ、羊羹などのデザートまで盛り込んだものだ。
この日は土佐名物「うつぼのたたき」まであり、ご馳走三昧。
鰹のたたきや濃い目の味付けの土佐料理には、司牡丹や酔鯨などの
特別辛い日本酒がよく合う。
今はまた東京に戻り、『龍馬伝』を見ながら
懐かしい親族と皿鉢料理を囲んだ土佐の休日を思い出している。
桂浜の近くに建つ、高知県立坂本龍馬記念館の屋上テラスから見た海。
記念館には龍馬の写真が何点も展示され、
懐手をしたあの有名な一葉の他にも写真があったことに驚いた。
激動の幕末に思いを馳せることができる、なかなか充実した記念館だった。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。