2010年06月02日更新
知ってますか?「住生活エージェント」 続編
前回の続きです。
住宅診断士など、住生活エージェントとしての仕事もしている、
一級建築士の武田学さん。
住生活エージェントとしての武田さんには、
具体的にどのような依頼がくるのか。
実際例が知りたいと武田さんにお願いすると、
武田さんに相談をしながら家を建てたSさんを紹介してくれました。
さっそくS邸におじゃまして話を聞くことに。
Sさん夫妻は4年ほど前に土地を買い、注文住宅を建てることにしました。しかしほどなく問題が起こります。
買った土地が傾斜地だったため、売主が擁壁を組んだ上で
引渡される約束だったのに、引渡しの期日が迫り、
住宅の施工が始まる段階になっても擁壁ができません。
仕方なく引渡しを延ばしましたが、再度決めた期日も守られませんでした。
施工会社に説明を求めても、
「擁壁工事は売主がやることになっています」の一点張りで、
埒が明きません。
売主とそれ以上交渉したくても、Sさんには専門的なことがわからず、
「これは第三者を入れるしかないと思いました」(Sさん)。
インターネットで「建築Gメン」を検索し、
そこに所属する一級建築士の武田さんに連絡。
住宅診断を初め、代理人、アドバイザー的役割を頼むことになったのです。
以降、武田さんは業者との打合せに全て同席、図面もチェック。
工事が正しく行われているかを現場で確認する「施工監理」もし、
擁壁工事に10年保証を付けるなどの交渉をしてくれました。
「武田さんが要所要所に入って『抑止力』として機能してくれたので、
業者側の都合、ペースで動かれずに済みました。
家の設計図はできてしまっていたので、設計変更はできませんでしたが、
設計上大きな問題はないことも確認してくれました」(Sさん)。
武田さんが負ってくれた役割は、住宅診断士のみならず、
「僕らサイドに立った建築のアドバイザーですね」とも。
「裁判に臨むには弁護士を付け、
病気の時は別の医師にセカンドオピニオンを聞くように、
専門分野において対等なステージに立つためには、プロの味方が必要。
家を建てる時もそのための費用を用意すべきだと思いました」とSさん。
結果としてSさんは供給側と対等なステージに立て、
家づくりをスムースに進められたのです。
武田さんが今回行ったのも住生活エージェントとしての仕事。
私はこれまで建築士の方々の役割を見聞きしてきましたし、
実際に自分がマンションを買う際も代理人として
建築士の方をお願いしたので、
彼らの専門的な知識、力をよく理解しています。
しかし一般の方にとってはまだまだ、
「建築士 イコール 図面を引く人」という認識なのではないでしょうか。
建築士は図面を引く以上の仕事もたくさんしていて、
住生活エージェントとしても消費者の役に立ってくれるという情報が、
ぜひ広く知れ渡り、買い手側に不利な取引が罷り通らない
社会になって欲しいものです。
リビングと中庭の床が同じタイルでフラットに続くデザインが気に入り、施工会社を決めたというSさん夫妻。武田さんへの報酬は時間制で、支払い総額は約50万円。「家が財産に占める割合を考えると、決して高くない。専門家の第三者検査は予算に入れるべき項目だと思う。武田さんのような役割をもっと早く知っていたら、契約前に頼みたかった」(Sさん)
S邸は外観もモダンデザイン。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。