2012年04月25日更新
片瀬山の住宅見学会
去る3月、建築家の瀬野和広さん
から、住宅見学会のお知らせが届いた。
場所は神奈川県藤沢市の片瀬山。
モノレールの駅を降りて現地まで向かうが、
一帯は絵に描いたような閑静な住宅地。
一軒の敷地がとても広く、道幅も広い。
私の住んでいる大田区の住宅街とは大違いだ
(すみません、比べる方が間違っていますね)。
途中、コンビニに寄りたかったのだが、
そんなものは見当たらないし、通行人に聞こうにも
まだ夕方だというのに、誰も歩いていない。
この辺りに住む方のほとんどは、車生活なのだろう。
高級住宅街を抜け、片瀬山から湘南の海へ向かって
降りる坂道の頂上辺りに、見学会の住宅はあった。
崖地の斜面を生かし、坂の下方に当たる
南側を存分に開いた、3層構造の建物だ。
北側半分が地中に埋まったかたちの地階は
鉄筋コンクリート造だが、あとは在来木造軸組み工法。
金物を極力使わない、木で木を組む伝統工法である。
木組みの伝統工法の家に包まれると、
日本人である私は条件反射的にほっとする。
しかもその木が合板などでない、
天然の無垢材だから尚更である。
1階から2階まで吹抜けになった
贅沢な空間からは、坂下の街並、海を見下ろせる。
2階の南側のバスルームからも同じ風景が見えるという
夢を現実にしたような家だ。
ところで、今回使われているのは、
静岡県天竜の杉とヒノキである。
それも「新月伐採」後、伐った山に倒して
3ヵ月以上自然乾燥させる「葉枯らし」を行なった木だという。
写真左手、南側の湘南へと降りる斜面の頂上付近に建つ。
屋根には芝生、太陽熱温水器などを設置したエコ住宅である。
満月を過ぎ、新月までの間、つまり月が欠けていく
時期に伐った新月伐採の木にはでんぷん質が少なく、
腐りにくい、カビにくい、色艶がよいといった
特長があるそう。
新月伐採や葉枯らし乾燥などについては、
今回の木材を供給した、天竜T.S.ドライシステム協同組合
のサイトに詳しい。
斜面のよさを生かした建て方や、
新月伐採の国産天然乾燥木を使うことなど、
ハウスメーカーの家では望むべくもない。
建築家、瀬野さん設計ならではの日本の家を
見せてもらった、片瀬山でのひとときであった。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。