2014年08月27日更新
三重県・熊野産材で建てる工務店
三重県は四日市市にある工務店、
アート・宙さん
とはお付き合いが始まってもう10年以上になる。
今月、これまでアート・宙さんで建てた
オーナーさんを招待しての感謝祭に
講師としてよんでいただき、久しぶりに
三重県に伺ってきた。
アート・宙さんの家づくりの一番の特長は、
熊野産の無垢材をぜいたくに使って
建てる点だと、私は思う。
日本は国土の約7割が森林で、
森林率でいえばフィンランド、スウェーデンに次いで
第3位という森林大国である。
それなのに、日本の中で使われている
国産材の割合はたったの3割弱。
7割以上は輸入材が使われているという、
残念な状況になってしまっている。
この理由を説明すると話が長くなってしまうので
ここでは簡単に。
戦後の急速に増えた木材需要に対応するため、
政府は拡大造林政策をとって大量のスギや
ヒノキを植えるも、木が育つには40年という
長い時間がかかるため、木材の輸入自由化に踏み切る。
このため、昭和30年には約95%もあった
日本の木材自給率は急速に下がり初め、
39年に輸入が完全自由化されると
40年代には自給率が45%と半減。
平成10年代には18%にまで落ち込み、
国産材はほとんど使われなくなってしまったのである。
こうして、安く安定的に供給される外国産材の需要が
伸び続けるのと反対に、国産材の価格は落ち続け、
経営が苦しくなった林業は衰退する。
せっかく大量に植えられて使い時となった
木が山に放置されているという大きな問題に
日本の森林は直面することになった。
…と、日本の林業問題を書くとやはり長くなってしまう。
平成24年には木材自給率は28%近くまで改善したものの、
まだほとんどの森林が有効活用されていない。
なんとか日本の山の木を適切に伐採して
使えるようにしなくてはならないと思う。
こうした状況の中、国産材で家を建てる工務店さんや
供給する材木会社、そしてそんな家を建てたいという
住み手の方々を応援したいと思うし、
私なりに応援してきたつもりである。
そうした工務店の一つが、地元三重県に根ざし、
熊野産材を使って家づくりを進めてきた
アート・宙さんだ。
木材を供給するのは、野地木材工業さん。
木の香りが漂ってくるような
素敵なウェブサイトを見ていたら、
私も国産材の家に住みたくなった。
今、ヨーロッパから始まった流れで、
日本でも大型の木造建築がつくられるようになった。
こうして、家をはじめとして、
日本の森林資源を有効活用した建物が増えることを願うし、
私もそれについて書いたり、微力ながら
応援を続けたいと思う。
熊野産材を使ったアート・宙さんの家に住む
オーナーさん達が集まった感謝祭。
こうした国産無垢材の家にたどり着くまでに
多くの研究をされたことだろう。
質の高い豊かな家に住んでおられるオーナーの
方々の笑顔はとても満ち足りて見えた。
懇親会では皆さんの家づくりのこだわりなども
直接お聞きできて、素敵な感謝祭の一日だった。
中島早苗の「心地いい場所」 バックナンバー
(2点とも)アート・宙さんの建てた住宅例。熊野産材がふんだんに使われた吹抜けの気持ちよい空間には薪ストーブも。
熊野の野地木材工業さんに、伐採した木が置かれている様子。
感謝祭には300人ものオーナーさんが集まり、話を聞いてくださった。
- リビングジャーナリスト・「家の時間」編集主幹
中島早苗 1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。アシェット婦人画報社で12年在籍した住宅雑誌『モダンリビング』を始め『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て独立。約20年間400軒あまりの家と家族、建築家、ハウスビルダーなどへの取材実績を基に、「ほんとうに豊かな住まいと暮らし」をテーマとして、単行本や連載執筆、講演等活動中。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)『やっぱり住むならエコ住宅』(主婦と生活社)『住まい方のプロが教えるリフォーム123のヒント』(日本実業出版社)『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。