2009年12月16日更新
アメリカと日本のリフォーム事情
僕らの設計事務所、カガミ建築計画が「建築家が設計するデザインリフォーム」を本格的に始めたのはアメリカから帰国した1996年からのことです。
バブルの余韻が残った時期に米国の建築大学院に留学し、その後、ニューヨークの設計事務所で二年間に渡って修行をしてきた経験から、まだ日本のリフォームに足りていないことがあると感じたからです。
僕が修行した設計事務所Cicognani Kalla Architects(略してCKA)は、イタリア人とアメリカ人、二人のボスが経営する事務所でした。仕事の内容は、マンハッタンの中心部では古いマンションやタウンハウスのリフォーム(向こうではリノベーションと言っていました)を、郊外では同じクライアントの別荘の設計をメインの仕事としていました。
クライアントは欧州系の有名ブランドのオーナー一家や、いわゆるセレブと呼ばれるような映画や歌手などの富裕層が多く、皆風格があり、歴史やエピソードがある建物を好んで購入し、リフォームを施していました。日本で想像する以上に、アメリカでは古いものが尊重されていました。
小さなものではアンティークの置物やキルトを大事にしていますが、不動産レベルでもプレ・ワー(第二次大戦以前に建てられた)のマンションに住み、それを現代的にリフォームすることが住民のステイタスとなっているようでした(新築の住宅でも、古くからそこに佇んでいたような風情の住宅を設計していました)。
古いマンションの外観はそのままに、内部のインテリアや設備を刷新するデザインリフォームは、新築以上にノウハウと丁寧さが必要な仕事とされていました。
歴史的建造物の指定を受けた建物リフォームの場合、申請許可を得るだけでも半年掛かって、それからようやく工事となります。それも装飾や金具は全て再利用するので(実はそれらだけでも一財産なのです)丁寧な解体から始まり、1年ほどの時間をかけて工事をするような調子でした。
古いものを全て引き剥がして、中身全部を刷新してしまうリフォームは意外と簡単なのです。それに対して、建物の由来や以前の持ち主の来歴といった歴史を紐解きながら、クライアントのスタイルにマッチしながら、それまでの歴史が上手に引き継がれるようなスタイルが、最高級のリフォームとされていました。
画家で作家でもある女性と二人の子供の為のタウンハウスのフルリフォームでは、二階に元々あった二つ並んだ浴槽を活かし、クライアントのアートのテイストに合せて、照明からタイルまで、ほぼ全てをお施主様と一緒にアンティークショップで選び、壁面の補修の跡をわざわざ露出されながら、建物の歴史を感じさせるようなコダワリのリフォーム事例もありました。
日本では、古い建物の機能を刷新して、新築並みに復活させるのがリフォーム、新築以上にバリューアップするのがリノベーションと言われているようです。古いものは壊して、新しいものに建て替えるというスクラップ&ビルドの風潮より、随分良くなったようですが、まだ「古いものは良くないもの」という観念から抜け切れていない気が致します。
色々なスタイルのリフォームがあって然るべきですが、僕らがこれから目指すものは、古いものの良さやエピソードを残しつつ、そこに新たに施主のテイストや最新技術の設備を加え、伝統や歴史を感じさせる、本質的な心地よさを確保したリフォームを追及してゆきたいと考えています。
セントラルパークを見下ろす高層マンションの工事現場
古いカトラリーキャビネットを組み込んだ食器棚
マンハッタンの眺望を生かしたデザインリフォーム
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/
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