2010年08月25日更新
古民家再生リフォーム
築60年以上の格調高い書院付き古民家の古さと雰囲気を活かしながら、若夫婦が快適に暮らせる住宅に再生リフォームした事例を紹介します。かつて東北地方の旅館の建物だったものを先代が約40年前に東京に移築してきた木造平屋の建物は、それまで隣にある本宅と直接繋がれて、離れの寝室兼納戸として使われていました。そこに、息子さん夫婦が引っ越してくることとなり、この部分だけで一通り完結した住宅になるように再生リフォームしたいとのご相談がありました。
息子さんたちは、この古民家の持っていた雰囲気や書院の格式が気に入っていらしたので、日本旅館のような和のテイストを残した住まいに再生したいとの意向を持っていらっしゃいました。しかし既存の空間は、それまでに幾度もの小規模リフォームを行ってきたことで、廊下にミニキッチンが詰め込まれているような、ツギハギだらけのどうにも中途半端な空間になっていました。因みに古民家とは、昭和20年以前に建てられた、建築金物を使わず、全てが無垢の材料で作られている住宅を指すそうです。
リフォームでは、基本的な構造体である柱や梁の木造フレームをしっかりと手直しすることから始めました。シロアリにやられていた柱は、痛んだ部分を削り新しい柱を継ぎ直し、歪んだ構造も押したり引いたりしながら、建て直しを行いました。ホコリだらけで汚れていた柱や梁もきれいに清掃し、完全に密閉されていた屋根裏の空間にも空気の流れ道を作り、家全体が呼吸できるような健全な構造にまずは手直しいたしました。構造的にも不安がある建物だったので、直ぐ隣接地にアパートが建ってしまった南側は、思い切って窓を全てふさぎ、柱を補強しています。また、耐震的なことを考慮して、とてもきれいだった瓦屋根を泣く泣く板金の屋根に葺き替え、重量を軽くすることで倒壊する可能性を下げることに致しました。
内部のレイアウトは、キッチンの入れ替えと、それまではなかった浴室とトイレを加える事になったので、大きく変わりました。きれいに組まれた天井の美しさを活かしたかったので、キッチンと水廻りを仕切る壁は、少し低めに抑え、仕上げも他とは違った白漆喰とし、古い構造の内部に新しい建築要素が入り込んでいるデザインとしました。元からあったお立派な書院は障子を生かして、新しく作った玄関の靴脱ぎ用ベンチとして転用しています。今回作った靴収納の扉には、以前他の場所で収納として使われていた雰囲気のあるガラス扉を付け替えました。庭だった箇所に、大きなウッドデッキを敷きこみ、掃き出しの窓は、断熱性能の高い新しいサッシに交換し、その部分を玄関としました。正々堂々とした床の間部分は、そのまま残しておきたかったのですが、本を入れる収納がどうしても足りなかったので、奥の小部屋と繋げて大容量の書庫へと変えています。
思い出のある昔の部品をきれいに復活させながら、新しい建築的な要素と組み合わせることで、古民家の雰囲気を残しながら、日本旅館のような格式と最新の設備が調和した新しい住まいが完成いたしました。
左写真:床下から現れた立派な無垢の大引き。右写真:柱の腐った箇所は撤去し、新しい柱を継いでいます。グズグズになってしまった土台の下に構造材を指し込み補強しています。
新しく作られた漆喰塗りの壁の左奥にキッチン、右奥に水廻りがあります。この壁を低く抑えることで、きれいな天井をそのまま残すことができました。
かつての部屋は窓が多く、壁が少なく、納戸のような状態でした。痛んでいた障子や襖も丁寧に補修して、使う場所を変えながら再生しています。
書院だった場所は、障子の位置を変え、
手前玄関から使うベンチとして転用しています。
右手の靴箱のガラス扉も他の収納に使われていたものです。
- 建築家
各務 謙司 (カガミ ケンジ) 1966年東京都港区生まれ。早稲田大学大学院終了後、ハーバード大学大学院に入学。留学修了後、94年にニューヨークのCicognani Kalla設計事務所勤務。マンハッタンの高級マンションのリノベーション、郊外の別荘等を担当する。帰国後、生まれ育った白金台に設計事務所を開設。古くなった建物にリフォームで手を加え、住まい方にあわせカスタマイズし、生き返らせることを活動の一つの柱としている。
カガミ・デザインリフォームhttp://www.kagami-reform.com/